社労士コラム
IPO労務監査のチェックリスト(36協定)
2021.09.14IPO労務監査
IPO労務監査において、重要なチェックポイントとして36協定が挙げられます。
目次
そもそも、労働基準法では、1日8時間、1週40時間を超える労働や法定休日(1週間に1日)に労働することを禁止しています。
もし守らずに労働させた場合は、労働基準法違反で罰則が適用されます。
ただし、実務においては、多くの会社で残業や休日労働が発生しています。
労働基準法第36条では、労使協定(36協定)を締結すれば、1日8時間、1週40時間を超えて労働させたり、法定休日に労働させたりすることができるとしています。
このため、多くの会社では36協定を締結し、労働基準監督署へ届出することで、労働基準法上の罰則から免れています。
IPO労務監査における36協定のチェックポイントは、次のとおりです。
①各事業場毎に36協定を届出しているか?
②各事業場毎に適正に過半数代表者の選任をしているか?
③36協定の内容を周知しているか?
④健康確保措置を実施しているか?
⑤特別条項を発動する手続きについて記録を残しているか?
IPO労務監査において、まず第1にチェックするのは、36協定が各事業場毎に労働基準監督署へ届出がされているかどうかです。
36協定は各事業場毎に締結・届出を行う必要があるため、時間外労働・休日労働を行わせているすべての事業場で36協定が存在しているか調査を行います。
また、その事業場を管轄する労働基準監督署への届出は、36協定の効力要件(免罰効果の要件)となっていることから、その届出の有無も調査します。
IPO労務監査において、よくあるケースは、本社の36協定は締結し、労働基準監督署へ届出をしているが、各支店の36協定は締結していない、あるいは労働基準監督署へ届出をしていないケースがよくあります。
IPO労務監査において、過半数代表者の選任が適正に行われているかどうかも重要なチェックポイントです。
当然ですが、各事業場毎に36協定がある場合は、その各事業場毎で適正に過半数代表者が選任されていることが必要です(過半数労働組合がある場合は除く)。
過半数代表者の要件は、
(1)労働基準法上の管理監督者ではないこと
(2)36協定を締結する者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の民主的な方法により選出された者であること
なお、その事業場に上記(1)に該当する者がいない場合は、上記(2)の要件を満たせば足りるとされています。
また、過半数代表者の選出手続について、上記(2)のように「投票、挙手等」の手続により選出されることとしています。
この「等」には、行政通達によると、労働者の話合い、持回り決議等、労働者の過半数が選任を支持していることが明確になる民主的な手続きが該当するとされています。
IPO労務監査において、よくあるケースは、そもそも過半数代表者の選任が行われていなかったり、役職者や親睦会の代表者等一定の地位のある者が自動就任したり、一部の労働者による互選等による選出がされているケースがよくあります。
この場合、選出過程の全部または一部に使用者の関与があるという点で民主的な選出方法といえず、選出方法としては適切ではないと思われます。
IPO労務監査において、36協定の内容を労働者に周知しているかどうかも重要なチェックポイントです。
労働基準法では、使用者は、36協定を常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面で交付することその他の厚生労働省令で定める方法によって、労働者に周知させなければならないとしています。
なお、使用者が36協定の周知を怠った場合は、罰金が科せられます。
ここでいう「厚生労働省令で定める方法」とは、以下の(1)~(3)の方法です。
(1)常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること
(2)書面を労働者へ交付すること
(3)磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること
上記(3)については、パソコン等の機器を使用して、労働者が必要な時に容易に確認できる状態になっていれば、問題ありません。
IPO労務監査において、よくあるケースは、就業規則は労働者へ周知しているが、36協定は労働者へ周知していないことがよくあります。
IPO労務監査において、限度時間(月45時間など)を超える時間外労働があった場合に、36協定で定める健康確保措置を行っているかどうかも重要なチェックポイントです。
36協定に特別条項を設ける場合には、過重労働による健康障害を防止する観点から、限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康確保措置を定めなければなりません。
なお、健康確保措置として講ずることが望ましいとされている措置の内容は、以下のとおりです。
(1)医師による面接指導
(2)深夜業の回数制限
(3)終業から始業までの休息時間の確保
(4)代償休日・特別な休暇の付与
(5)健康診断
(6)連続休暇の取得
(7)心とからだの相談窓口の設置
(8)配置転換
(9)産業医等による助言・指導や保健指導
IPO労務監査において、よくあるケースは、上記(1)や(5)などが36協定に記載されていますが、実際に限度時間を超えた労働者がいた場合においても、上記措置を実施していないケースがよくあります。
IPO労務監査において、特別条項を発動する手続きについて記録を残しているかどうかも重要なチェックポイントです。
限度時間(月45時間など)を超えて労働させる場合の手続きとして、36協定に過半数代表者との協議や通告などの手続きを定めなければなりません。
この手続きは、1ヵ月毎に限度時間を超えて労働させることができる具体的事由が生じたときに必ず行わなければなりません。
また、行政通達によると、「労使当事者間において取られた所定の手続の時期、内容、相手方等を書面等で明らかにしておく必要がある」とされています。
このため、限度時間を超えて労働させる場合は、36協定で定めた手続きに基づき、その都度、過半数代表者との協議や過半数代表者への通告等をしなければなりません。
IPO労務監査において、よくあるケースは、特別条項を発動する手続きの内容が過半数代表者との協議となっているのに、実際には協議していないケースや、協議はしているがそのエビデンスが残っていないケースなどがよくあります。