社労士コラム
M&A労務デューデリジェンス(DD)の調査項目とは?
2021.09.13M&A労務デューデリジェンス(DD)
M&A労務デューデリジェンス(DD)は、調査をする期間(時間)が限られているため、調査項目の優先順位を決めて、行う必要があります。
その優先順位を決める基準は、リスクの発生度合いにより決定します。
労務に関する隠れ債務は、
①簿外債務
②偶発債務
に分けられます。
「簿外債務」とは、貸借対照表には計上されていない(本来、計上されていなければならない)債務のことをいいます。
例えば、M&A労務デューデリジェンス(DD)においては、割増賃金の未払い、最低賃金を下回る賃金の未払いや社会保険に加入しなければならない社員の加入漏れによる社会保険料の未払いなど既に発生が確定している債務です。
「偶発債務」とは、想定外の出来事によって顕在化する債務をいいます。
例えば、 M&A労務デューデリジェンス(DD)においては、 労働基準法上の管理監督者であるか否かの判断(名ばかり管理職であるかどうかの判断)に伴い、発生する割増賃金等の債務です。
労働基準法上の管理監督署であるかどうかの判断は、非常に難しいもので、最終的には裁判所の決定に委ねなければ判断がつかないこともあるため、必ずしも発生する債務とはいえません。
「簿外債務」と「偶発債務」では、リスクの発生度合いに乖離があるため、M&A労務デューデリジェンス(DD)においては、通常「簿外債務」を優先的に調査する必要があります。
M&A労務デューデリジェンス(DD)における「簿外債務」の具体例としては
(1)未払い賃金
(2)退職給付債務
(3)社会保険料(健康保険・厚生年金保険)
(4)労働保険料(労災保険・雇用保険)
(5)障害者雇用
(6)年次有給休暇引当金
M&A労務デューデリジェンス(DD)における「偶発債務」の具体例としては
(1)労働基準法上の労働時間
(2)労働基準法上の管理監督者
(3)解雇(バックペイ)
(4)取締役・個人請負型就業者の労働者性
などがあげられます。
M&A労務デューデリジェンス(DD)において、「簿外債務」については、法律で定められた計算方法等を用いて評価するため、調査人の見解の影響を受ける余地は、ほとんどありません。
しかし、「偶発債務」については、偶発債務の有無及び債務額について、法律、通達及び過去の裁判例等を参考に調査人が評価するため、最終的には調査人の見解によるものになります(調査人によって見解に相違があります)ので、注意が必要です。
なお、M&A労務デューデリジェンス(DD)を行う場合、労務デューデリジェンス(DD)の実施目的から「簿外債務」の調査は必須と考えます。