社労士コラム
M&A労務デューデリジェンス(DD)のチェックポイント(フレックスタイム制:1ヵ月以内)
2021.11.16M&A労務デューデリジェンス(DD)
M&A労務デューデリジェンス(DD)において、重要なチェック項目の1つとして、「フレックスタイム制」があります。
「フレックスタイム制」について、正確にその内容を把握できていないと、思わぬところで「未払い賃金」を抱えている可能性がありますので、M&A労務デューデリジェンス(DD)において、その内容を的確に把握する必要があります。
目次
フレックスタイム制とは、労働者が1ヵ月以内の期間において、一定の労働時間数を働くことを条件として、始業・終業時刻を、労働者自らが自由に選択できる制度です。
変形労働時間制とフレックスタイム制の違いですが、変形労働時間制では、始業・終業時刻を会社が定めるのに対し、フレックスタイム制では労働者が決定できる点が大きく異なります。
なお、始業時刻又は終業時刻のいずれか一方のみを労働者の決定に委ねる制度は、労働基準法上のフレックスタイム制ではありませんので、注意が必要です。
M&A労務デューデリジェンス(DD)においても、売り手企業にフレックスタイム制が導入されている場合は、始業及び終業時刻のいずれもが、労働者の決定に委ねられているかどうかチェックされます。
フレックスタイム制を導入するためには、労働基準法32条の3により、下記の要件を満たす必要があります。
(1)一定の労働者につき、「始業・終業時刻を労働者の決定に委ねる」ことを就業規則その他これに準ずるものに記載すること
(2)一定事項を定めた「労使協定」を締結すること(清算期間が1ヵ月以内の場合は労働基準監督署への届出不要)
労働基準法89条1号において、「始業・終業時刻」が就業規則の絶対的必要記載事項とされていることとの関係では、行政通達上、就業規則には「始業・終業時刻を労働者の決定に委ねる」旨を定めさえすれば、同上の要件を満たすものとされています。
M&A労務デューデリジェンス(DD)においても、売り手企業にフレックスタイム制が導入されている場合は、就業規則に「始業・終業時刻を労働者の決定に委ねる」旨が定められているかどうかチェックされます。
ただし、コアタイム(労働者が労働しなければならない時間帯)、フレキシブルタイム(労働者がその選択により労働することができる時間帯)を定める場合は、これらも「始業・終業時刻」に関する事項であるため、これらを設ける場合には、就業規則に規定すべきものとされています(昭63.1.1基発1号、平11.3.31基発168号)。
なお、コアタイムやフレキシブルタイムを設けるかどうか自体は、任意です。
労使協定において、以下の事項を定めなければなりません。
1.対象となる労働者の範囲
2.清算期間
3.清算期間における総労働時間
4.標準となる1日の労働時間
5.コアタイムを定める場合には、その開始・終了時刻
6.フレキシブルタイムを定める場合には、その開始・終了時刻
労働基準法32条の3によると、フレックスタイム制の適用対象となる労働者の範囲を特定する必要があります。
各事業場で任意に設定可能であり、個人ごと、グループごと、課ごとあるいは事業場全体など、自由に定めることができます。
清算期間とは、フレックスタイム制において、その期間を平均し1週間あたりの労働時間が1週40時間を超えない範囲において労働させる期間をいいます。
労使協定においては、清算期間とその起算日を定める必要があります。
通常は、賃金の計算期間である1ヵ月とし、起算日も賃金計算期間の始期に合わせるのが一般的です。
清算期間における総労働時間とは、フレックスタイム制において、労働契約上労働者が労働すべき時間(所定労働時間)を定めるものです。
この時間は、清算期間を平均して1週間の労働時間が法定労働時間の範囲内とするよう定められなければなりません。
計算方法は、以下の通りです。
清算期間における法定労働時間の総枠
=週の法定労働時間×清算期間における歴日数/7
・歴日数(31日)=40×31/7=177.14時間
・歴日数(30日)=40×30/7=171.42時間
・歴日数(28日)=40×28/7=160時間
つまり、上記の法定労働時間の総枠(31日なら177.14時間)の範囲内で、労働契約上労働者が労働すべき時間(所定労働時間)を決定する必要があります。
M&A労務デューデリジェンス(DD)においても、売り手企業にフレックスタイム制が導入されている場合は、所定労働時間が「清算期間における法定労働時間の総枠」の範囲内で定められているかどうかチェックされます。
なお、通常は、「標準となる1日の労働時間×その月の所定労働日数」により定めるのが一般的です。
標準となる1日の労働時間とは、フレックスタイム制において、年次有給休暇を取得した際に支払われる賃金の算定基礎となる労働時間等となる労働時間の長さを定めるものです。
単に時間数を定めれば足りるとされています。
フレックスタイム制を導入する時点での1日の所定労働時間を基準とするケースが多いと思われます。
コアタイムとは、フレックスタイム制において労働者が必ず労働しなければならない時間帯をいいます。
コアタイムを設ける場合には、その時間帯の開始・終了時刻を定めなければなりません。
フレキシブルタイムとは、フレックスタイム制において労働者がその選択により労働することができる時間帯をいいます。
フレキシブルタイムを設ける場合には、その時間帯の開始・終了時刻を定めなければなりません。
ただし、フレキシブルタイムが極端に短い場合や、コアタイムの開始から終了までの時間と標準となる1日の労働時間がほぼ一致している場合等については、始業・終業時刻を労働者の決定に委ねたことにならないため、フレックスタイム制の趣旨には合致しないとする行政通達があります(昭63.1.1基発1号、平11.3.31基発168号)。
M&A労務デューデリジェンス(DD)においても、フレキシブルタイムが極端に短くないかどうか、 コアタイムの開始から終了までの時間と標準となる1日の労働時間がほぼ一致していないかどうかチェックされます。