IPOにおける労務管理のリスクとは、何ですか? IPO労務監査・M&A労務デューデリジェンス(DD)なら
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社労士コラム

IPOにおける労務管理のリスクとは、何ですか?

2021.11.12IPO労務監査

IPOを目指す企業が、労務管理で直面するリスクには、下記の4つがあります。

①キャッシュアウトリスク

(1)未払い残業代

IPOを目指す企業が、労務管理で直面する「キャッシュアウトリスク」で、一番大きな問題になるのは、「未払い残業代」です。

労働者の賃金請求権は、3年間です。

このため、「未払い残業代」については、労働者は3年前までさかのぼって請求することができます。

特にIPO準備期間中は、会社業績を上げることに集中するため、社員の残業時間が増えがちです。

社員が残業しているにも関わらず、当該残業時間に対する割増賃金を支払っていない場合、相当大きな金額の「未払い残業代」が発生します。

例えば、月給30万円給与で、毎月30時間分の未払い残業があった場合、3年間(時効が3年のため)で234万円程度(月平均所定労働時間173時間として)の未払い残業が発生します。

月30時間の残業とは、1日1.5時間程度の残業のため、決して非現実的な数字ではありません。

また、1人の社員の未払い残業代は234万円程度ですが、社員数が100名いれば、2億3,400万円程度(234万円×100名)の未払い残業代が発生します。

1人の社員に未払い残業代がある場合は、他の社員にも未払い残業代があることが一般的である(通常、同じルールで給与計算をしている)ため、この金額も決して非現実的な数字ではありません。

IPOを目前に、IPO労務監査において、社員から未払い残業代請求の可能性があると分かった場合は、それだけでIPOを見送ることもありますので、注意が必要です。

(2)未払い社会保険料

また、IPOを目指す企業が、労務管理で直面する「キャッシュアウトリスク」で、よく問題になるのは「社会保険未加入の問題」です。

特にパート・アルバイトで社会保険に加入しなければならない方が、未加入の場合、過去2年間にさかのぼって、社会保険に加入し直さなければならないことがあります。

この場合も「未払いの社会保険料」が発生します。

例えば、月額15万円程度のパート・アルバイトの方が社会保険の加入要件を満たしているのに、社会保険に未加入の場合、2年間で100万円程度の未払い社会保険料(事業主負担分も含む)が発生します。

同様に1人のパート・アルバイトの未払い社会保険料は100万円程度ですが、パート・アルバイト数が100名いれば、1億円程度(100万円×100名)の未払い社会保険料が発生します。

IPO労務監査において、未払い社会保険料が発見された場合、特にパート・アルバイトの人数が多い業種(飲食店・小売店等)は、IPOどころか、企業経営に大きなダメージを与えかねないため、注意が必要です。

②訴訟リスク

IPOを目指す企業が、労務管理で直面する「訴訟リスク」でよくあるケースは、「社員の健康管理問題」です。

労働安全衛生法では、1週40時間を超えた労働時間が月80時間を超える社員から申出があった場合、医師による面談指導を受けさせる義務があります。

また、1週40時間を超えた労働時間が月80時間を超える社員に対し、会社はその超えた時間を当該社員に通知しなければなりません。

労働安全衛生法が規定する面接指導は、社員の申出を要件としていますが、会社は社員の労働時間の把握を適切な方法で行うことが義務づけられており、一般の社員の労働時間については把握しているのが通常です。

このため、面接指導の時間要件を満たしている社員に対しては、申出を待つまでもなく、会社側から働きかけることが重要です。

こうした義務を守らず、健康問題(過労死やうつ病による自殺など)が発生した場合、会社側に安全配慮義務違反が後日問われることがあります。

このような場合、遺族が訴訟を起こし、敗訴すれば1億円を超える賠償もありえますので、注意が必要です。

当然にIPO準備期間中に、上記のような訴訟に発展することがあれば、IPOを見送る可能性が高くなりますので、注意が必要です。

③行政指導リスク

IPOを目指す企業が、労務管理で直面する「行政指導リスク」でよくあるケースは、「労働基準監督署による調査」です。

労働基準法をはじめとする労務コンプライアンスが守られていない場合、労働基準監督署の調査によって、是正勧告や改善指導を受ける可能性があります。

労働基準監督官には、「行政法上の権限」と「特別司法警察員としての権限」が与えられています。

「行政法上の権限」とは、労働基準法、労働安全衛生法、最低賃金法などの法令違反の有無を調査する目的で事業所等に立ち入る権限のことをいいます。

この権限に基づいて行われる調査が、労働基準監督官の臨検です。

この臨検には、大きく次の3つの種類があります。

(1)定期監督

厚生労働省労働基準局長や都道府県労働局長から指示された行政方針にもとづいて、労働基準監督署長が管内の行政方針を策定し、そのなかで調査の重点業種や重点項目を詳細に定めることになっており、その計画に基づいて行われる監督をいいます。

(2)申告監督

社員が、事業場に労働基準法などの法令違反があることを労働基準監督署に申告することで実施される監督です。原則として、申告事由についてのみ調査されることになりますが、場合によっては全社に及ぶケースもあります。

(3)再監督

定期監督や申告監督が実施され、事業場から報告を受けた是正内容がキチンと実行されているかどうか確認する監督です。

臨検の際に労働基準法などに抵触する法令違反、あるいは法令違反のおそれがある事項が発見されると、「是正勧告」や「指導」が行われます。

「是正勧告」とは、臨検を受けて労働基準監督官が法令違反と判断した事項がある場合、書面で勧告することです。

「指導」とは、臨検を受けて労働基準監督官が法令違反ではないものの、改善する必要があると認めた事項について、書面で改善を求めるものです。

この「是正勧告」や「指導」は、あくまでも行政上の手続きであって、法律的な効果が生じる訳ではありませんので、厳密にいうとこれに応じる義務はありません。

しかし、この「是正勧告」や「指導」に対応しない場合、労働基準監督官は司法警察官の職務を行うことができるため、最悪の場合、書類送検される可能性もありますので、注意が必要です。

IPO準備期間中に、労働基準監督署から是正勧告を受けた場合は、内容によっては、IPOを延期しなければならないこともありますので、注意が必要です。

当然、IPO労務監査においても、過去に労働基準監督署から「是正勧告」を受けていないかどうかチェックされます。

④風評被害リスク

IPOを目指す企業が、労務管理で直面する「不評被害リスク」で、よくあるケースは、「ブラック企業」というレッテルが貼られてしまうことです。

「ブラック企業」とは、法的な定義はありませんが、

一般的に

(1)長時間労働が常態化している企業

(2)残業代の未払いが横行している企業

(3)過重なノルマが常態化している企業

(4)離職率の高い企業

(5)セクハラ、パワハラが横行している企業

などが挙げられます。

昨今はSNSの普及に伴い、簡単に「ブラック企業」のレッテルは貼られ、ネット上に拡散します。

一度、「ブラック企業」のレッテルを貼られてしまうと、集客や取引はもちろん、とくに採用活動に大きな影響が出ます。

優秀な人材を計画通りに採用できないこととなると、成長性に支障をきたす恐れもあります。

さらにこのような風評被害リスクの影響により、IPO後の株価の低迷にもつながりかねませんので、注意が必要です。

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