M&A労務デューデリジェンス(DD)のチェックポイント(1年単位の変形労働時間制) IPO労務監査・M&A労務デューデリジェンス(DD)なら
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社労士コラム

M&A労務デューデリジェンス(DD)のチェックポイント(1年単位の変形労働時間制)

2021.11.8M&A労務デューデリジェンス(DD)

M&A労務デューデリジェンス(DD)において、重要なチェック項目の1つとして、「1年単位の変形労働時間制」があります。

「1年単位の変形労働時間制」について、正確にその内容を把握できていないと、思わぬところで「未払い賃金」を抱えている可能性がありますので、M&A労務デューデリジェンス(DD)において、その内容を的確に把握する必要があります。

①1年単位の変形労働時間制とは?

1年単位の変形労働時間制とは、労使協定を締結することにより、1ヵ月を超え1年以内の一定期間(例えば、1年や6ヵ月など)を平均して1週間あたりの所定労働時間が、週の法定労働時間(40時間)を超えない定めをした場合、特定された週において、1週間の法定労働時間(40時間)を、又は特定された日において、1日の法定労働時間(8時間)を超えて、労働させることができる制度です。

1年単位の変形労働時間制は、1ヵ月単位の変形労働時間制よりも柔軟な労働時間の設定が可能となります。

つまり、会社実態として、年単位でみて、時期により繁閑の差(例えば、夏場は忙しいが、冬場は暇など)があるような場合には、年単位で法定労働時間を変形して、所定労働時間を設定することが可能です。

通常の労働時間制度の場合、どの週についても40時間以内、どの日についても8時間以内で所定労働時間を決めなければなりませんが、1年単位の変形労働時間制を導入すると、この週は48時間、この日は10時間などと、所定労働時間を設定することができます。

ただし、対象期間(1ヵ月を超え1年以内の一定期間)の範囲内で、1週間の平均の所定労働時間は40時間以内とする必要があります。

なお、1ヵ月単位の変形労働時間制の場合は、1日の所定労働時間及び1週間の所定労働時間の設定について、上限はありませんでしたが、1年単位の変形労働時間制では、1日については10時間、1週間については52時間の範囲内で、所定労働時間を設定する必要があります。

このため、M&A労務デューデリジェンス(DD)において、売り手企業で1年単位の変形労働時間制が導入されている場合は、1日について10時間以内、1週について52時間以内の範囲内で所定労働時間が設定されているかどうかチェックされます。

②1年単位の変形労働時間制導入の要件とは?

1年単位の変形労働時間制を導入するためには、1ヵ月単位の変形労働時間制の場合とは異なり、必ず労使協定を締結し、所轄労働基準監督署へ届出をしなければなりません。

このため、M&A労務デューデリジェンス(DD)において、売り手企業において、1年単位の変形労働時間制が導入されている場合は、労使協定が締結されているかどうか、そしてその労使協定が労働基準監督署へ届出されているかどうかチェックされます。

なお、労使協定においては、下記事項を協定しなければなりません。

(1)対象となる労働者の範囲

(2)対象期間・起算日

(3)対象期間における労働日及び当該労働日ごとの所定労働時間

(4)特定期間

(5)有効期間

(1)対象となる労働者の範囲とは?

例えば、全従業員や販売員など、1年単位の変形労働時間制の対象となる労働者の範囲を明確にします。

(2)対象期間・起算日とは?

対象期間とは、その期間を平均して1週間あたりの所定労働時間が40時間を超えない範囲において労働させる期間をいい、1ヵ月を超えて1年以内の期間に限るものとされています。

また、かかる対象期間の起算日を明らかにする必要があります。

例えば、対象期間を「1年」とし、その起算日を「令和3年1月1日」とすることです。

(3)対象期間における労働日及び当該労働日ごとの所定労働時間とは?

対象期間を平均して、1週間の所定労働時間が40時間を超えないように対象期間内の各日、各週の所定労働時間を定める必要があります。

対象期間を平均して、1週間あたりの所定労働時間が40時間を超えないということは、具体的には、対象期間における所定労働時間の合計が、次の式によって計算される対象期間における法定労働時間の総枠の範囲内にあるということです。

・対象期間1年の場合、2085.71時間(40H÷7×365)

・対象期間6ヵ月の場合、1045.71時間(40H÷7×183)

・対象期間3ヵ月の場合、525.71時間(40H÷7×92)

つまり、対象期間を1年(365日)とした場合、1年の所定労働時間の合計が2085.71時間を超えないように、当該会社の所定労働時間を定める必要があります。

このため、M&A労務デューデリジェンス(DD)において、売り手企業で1年単位の変形労働時間制が導入されている場合は、上記の法定労働時間の総枠の範囲内において、売り手企業の所定労働時間が設定されているかどうかチェックされます。

なお、1ヵ月単位の変形労働時間制の場合は、常時10人未満の労働者を使用する商業・映画演劇業・保険衛生業・接客業については、1週間の法定労働時間44時間を採用できましたが、1年単位の変形労働時間制では、その採用ができませんので、注意が必要です。

また、1日の所定労働時間を一定とした場合、1週間平均の所定労働時間40時間をクリアするための1日の所定労働時間と年間休日数は、下記のようになります。

<1年365日の場合>

・1日の所定労働時間 8時間 → 年間休日数 105日

・1日の所定労働時間 7時間30分 → 年間休日数 87日

なお、先ほども申し上げましたが、1年単位の変形労働時間制には、1日及び1週間の所定労働時間の限度が定められておりますので、原則として1日10時間、1週52時間が限度時間となります。

また、対象期間における連続労働日数は、最長6日までとなります。

さらに、対象期間が3ヵ月を超える場合は、

・対象期間における労働日数の限度は、原則として1年間に280日

・週48時間を超える所定労働時間の設定には、次のような制限があります。

(a)対象期間中に、週48時間を超える所定労働時間を設定するのは連続3週以内

(b)対象期間の初日から3ヵ月ごとに区切った各期間において、週48時間を超える所定労働時間を設定した週の初日の数が3以内

(4)特定期間とは?

特定期間とは、対象期間のうち特に業務が繁忙な時期として定められた期間をいいます。

特定期間を定めれば、1週間に1日の休日が確保できる日数(最長12日)とすることができます。

(5)有効期間とは?

1年単位の変形労働時間制に関する労使協定については、原則として、有効期間の定めをしなければなりません。

この有効期間について、行政通達では、その期間は1年程度とすることが望ましいが、3年以内程度のものであれば受理して差し支えないとされています。

なお、始業・終業時刻、休憩時間や休日は、就業規則に必ず定めなければならない事項となっていますから、労使協定により1年単位の変形労働時間制を採用したとしても、変形期間中の各日の始業・終業時刻等を就業規則にも定め、所轄労働基準監督署への届出をする必要があります。

M&A労務デューデリジェンス(DD)においても、売り手企業の就業規則に、始業・終業時刻等が記載されているかどうかチェックされます。

③所定労働日や所定労働時間を特定することが困難な場合は?

1年単位の変形労働時間制を導入する場合、対象期間における労働日及び当該労働日ごとの所定労働時間を、具体的に定める必要があります。

しかし、これを実行しようとすると、何ヵ月も先の労働日の労働時間まで具体的に定めなければならず、実務上とても不便となります。

そこで、労働基準法では、対象期間を1ヵ月以上の期間に区分する場合は

(a)「当該区分による各期間のうち当該対象期間の初日の属する期間(最初の区分期間)における労働日及び当該労働日ごとの労働時間」

(b)「当該最初の期間を除く各期間(残りの区分期間)における労働日数及び総労働時間」を定めておくだけでもよいとしています。

そして、上記のような区分期間を設けた使用者は、当該期間の初日の少なくとも30日前に、当該事業場の過半数労働組合、または過半数代表者の同意を得て、当該区分期間の労働日と各労働日の所定労働時間を書面で定める必要があります。

つまり、対象期間を1ヵ月以上の単位で区分しておけば、協定締結時に所定労働日と所定労働時間を定めるのは、最初の区分期間のみで足り、それ以外の期間については、各期間における「労働日数」及び「総労働時間」を協定しておけばよいこととなります。

例えば、

最初の区分期間の所定労働日と各日の所定労働時間はカレンダーで特定した上で、残りの期間は下記のように記載します。

○月以降の各月の所定労働日数と所定労働時間は、次のとおりとする。

○月 所定労働日数○日、所定労働時間○時間

○月 所定労働日数○日、所定労働時間○時間

○月 所定労働日数○日、所定労働時間○時間

M&A労務デューデリジェンス(DD)においても、売り手企業が上記の方法で所定労働日及び各日の所定労働時間を特定している場合は、当該期間の初日の30日前までに特定されているかどうかチェックされます。

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