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社労士コラム

IPO労務監査のチェックリスト(懲戒処分)

2021.10.29IPO労務監査

IPO労務監査において、重要なチェック項目の1つとして、「懲戒処分」があります。

「懲戒処分」について、正確にその内容を把握できていないと、思わぬところで「法的なリスク」を抱えている可能性がありますので、IPO労務監査において、その内容を的確に把握する必要があります。

①懲戒処分とは?

懲戒処分とは、服務規律や業務命令に違反した労働者に対する制裁罰のことをいいます。

なお、懲戒権を行使するためには、

(1)懲戒の種別(種類と程度)

(2)懲戒の事由

を就業規則に規定し、これを労働者に周知することが必要です。

なお、労働基準法15条によると、「制裁の定め」は、労働契約の締結に際し、労働者に明示しなければならない労働条件とされています。

また、労働基準法89条によると、「制裁の定め」は、就業規則の必要記載事項とされています。

このため、IPO労務監査においても、IPO準備会社の就業規則に、「懲戒の種類と程度」、「懲戒事由」が明記されているかどうか、そして、その就業規則が従業員に周知されているかどうかチェックされます。

②懲戒の種類と程度とは?

懲戒の種類には、例えば、譴責、減給、出勤停止、降職・降格、諭旨解雇、懲戒解雇などが挙げられます。

(1)「譴責」とは?

「譴責」とは、一般的に「始末書を提出させて将来を戒めること」をいいます。

譴責処分は、それ自体では経済的な不利益を課さない処分となりますが、譴責処分を受けたことにより、昇給・賞与・昇格等の査定上においてマイナスの評価を受けることが、一般的です。

(2)「減給」とは?

「減給」とは、「労働者の賃金から一定額を差し引くこと」をいいます。

なお、減給については、労働基準法91条により、「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」としています。

なお、「総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」とは、複数の懲戒事由があり、減給が1賃金支払期における賃金の総額の10分の2となった場合には、まず当月では10分の1を減額し、次の賃金支払期に10分の1を減額します。

つまり、1回の賃金支払期においては、10分の1以上を減額することはできませんが、10分の1以上は減額できないという意味ではありません。

(3)「出勤停止」とは?

「出勤停止」とは、「労働契約を継続させながら、労働者の就労を一定期間禁止すること」をいいます。

この場合、労働者本人の責めに帰すべき事由があって、労務提供がされないのですから、出勤停止期間中は、賃金が支給されないことが一般的です。

なお、出勤停止の期間(長さ)については、法的な規制はなく、民法90条の公序良俗による制限があるだけです。

(4)「降職・降格」とは?

「降職」とは、「職位や役職を解き、もしくは引き下げる処分」をいいます。

「降格」とは、「職能資格制度上の資格や職務等級・役割等級制度上の等級を低下させること」をいいます。

なお、懲戒権とは別に人事権に基づいて「降職」や「降格」を行うこともできます。

(5)「諭旨解雇」とは?

「諭旨解雇」とは、「懲戒解雇相当の事由がある場合で、本人に反省が見られる場合に、解雇事由に関し本人に説諭して解雇するもの」であり、懲戒解雇を若干軽減した懲戒処分です。

諭旨解雇について、懲戒で労働契約を解消することに変わりはなく、訴訟における敗訴リスクは、懲戒解雇とそれほど大きな差はないため、注意が必要です。

(6)「懲戒解雇」とは?

「懲戒解雇」とは、「重大な企業秩序違反者に対する制裁罰としての解雇」をいい、懲戒処分の中で最も重い処分です。

また、懲戒解雇は、懲戒処分としての性質を有するとともに、解雇としての性質を有しているため、両者の関する法規制を受けます。

そして、懲戒解雇は、普通解雇よりも大きな不利益を労働者に与えるものであり、解雇権濫用法理の適用上は、普通解雇よりも厳しい規制がかけられます。

このため、IPO労務監査においても、IPO準備会社で過去に懲戒解雇があったかどうかチェックされます。

③懲戒解雇と即時解雇とは?

懲戒解雇も解雇ですから、労働基準法20条の適用があります。

労働基準法20条によると、「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。」

「但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合又は労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合においては、所轄労働基準監督署長の認定を受けた場合、この限りではない。」とされています。

つまり、原則として解雇する場合は、

・30日前までに解雇予告するか

・30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません。

(1)即時解雇とは?

ただし、

・天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合

・「労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合」

において、所轄労働基準監督署長の認定を受けた場合は、解雇予告が免除されます(即時解雇が可能となります)。

IPO労務監査においても、懲戒解雇の場合には、常に即時解雇が認められると誤解されている傾向がありますが、実際は、「労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合」とは、労働基準法上の解雇予告制度によって労働者を保護するに値しないほどの重大な又は悪質な義務違反が当該労働者にあった場合であって、会社内の懲戒解雇事由とは必ずしも一致しません。

(2)即時解雇の具体例とは?

では、「労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合」とは、具体的にはどのような場合でしょうか?

具体的なケースについては、行政通達(昭23.11.11基発1637号・昭31.3.1基発111号)によって、下記のように定められています。

「労働者の責に帰すべき事由」とは、労働者の故意、過失又はこれと同視すべき事由であるが、判定に当たっては、労働者の地位、職責、継続勤務年限、勤務状況等を考慮の上、総合的に判断すべきであり、「労働者の責に帰すべき事由」が法第20条の保護を与える必要のない程度に重大又は悪質なものであり、従って又使用者をしてかかる労働者に30日前に解雇の予告をなさしめることが当該事由と比較して均衡を失するようなものに限って認定すべきものである。

「労働者の責に帰すべき事由」として認定すべき事例は、下記の通りです。

(a)原則として極めて軽微なものを除き、事業場内における盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為のあった場合、また一般的に見て「極めて軽微」な事案であっても、使用者があらかじめ不祥事件の防止について諸種の手段を講じていたことが客観的に認められ、しかもなお労働者が継続的に又は断続的に盗取、横領、傷害等刑法犯又はこれに類する行為を行った場合、あるいは事業場外で行われた盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為があっても、それが著しく当該事業場の名誉若しくは信用を失墜するもの、取引関係に悪影響を与えるもの又は労使間の信頼関係を喪失せしめるものと認められる場合

(b)賭博、風紀紊乱等により職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ぼす場合。また、これらの行為が事業場外で行われた場合であっても、それが著しく当該事業場の名誉もしくは信用を失墜するもの、取引関係に悪影響を与えるもの又は労使間の信頼関係を喪失せしめると認められる場合。

(c)雇入れの際の採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合及び雇入れの際、使用者の行う調査に対し、不採用の原因となるような経歴を詐称した場合。

(d)他の事業場へ転職した場合。

(e)原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合。

(f)出勤不良又は出欠常ならず、数回に亘って注意を受けても改めない場合。

の如くであるが、認定に当たっては、必ずしも右の個々の例示に拘泥することなく総合的かつ実質的に判断すること。

なお、就業規則等に規定されている懲戒解雇事由についてもこれに拘束されることはないこと。

このように、除外認定の申請に際しては、上記通達を参考にしながら、除外事由があるか否か、総合的かつ実質的に判断する必要があります。

また、上記のような即時解雇事由があった場合でも、解雇予告せず、即時解雇する場合は、労働基準監督署長の認定を受ける必要があります。

IPO労務監査において、よくあるケースは、即時解雇事由に該当していないのにもかかわらず、解雇予告をせずに懲戒解雇しているケースです。

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