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社労士コラム

IPO労務監査のチェックリスト(パワハラ)

2022.01.12IPO労務監査

IPO労務監査において、重要なチェック項目の1つとして、「パワハラ」があります。

「パワハラ」について、正確にその内容を把握できていないと、思わぬところで「法的なリスク」を抱えている可能性がありますので、IPO労務監査において、その内容を的確に把握する必要があります。

職場におけるパワハラ防止対策を企業に義務づける改正労働施策総合推進法が2020年6月1日から施行されており(中小企業は2022年4月1日から施行)、企業としても本格的な対策が求められているところです。

①パワハラ防止対策とは?

改正労働施策総合推進法では、「パワハラの定義」が明確化された上で、事業主に対し「パワハラの防止対策」が義務づけられました。

なお、詳細は「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(以下、「指針」という)に記載されています。

指針の内容は、大きく分けると

(1)パワハラの定義

(2)雇用管理上講ずべき措置(パワハラ防止対策)

(3)望ましい取組

に分かれています。

IPO労務監査においては、(1)(2)が重要な部分となりますので、この部分を解説していきたいと思います。

②パワハラとは?

(1)パワハラの定義とは

「パワハラの定義」ですが、初めて法律上、明確化されました。

「職場におけるパワーハラスメント(パワハラ)」とは

1.優越的な関係を背景とした言動

2.業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動

3.労働者の就業環境が害されるもの

で、この1~3の要素を全て満たすものと定義されました。

1.「優越的な関係を背景とした言動」とは

職務上の地位に限らず、人間関係や専門知識など様々な優位性が含まれる趣旨です。

上司から部下に対して行われるものに限らず、先輩・後輩間や同僚間、部下から上司に対するものも含まれます。

指針には

・職務上の地位が上位の者による言動

・同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの

・同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの

が挙げられています。

2.「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」とは

個人の受け取り方によっては、業務上必要な指示や注意・指導を不満に感じたりする場合でも、これらが業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、パワハラには当たりません。

必要性、目的、手段・態様、回数、行為者の人数などから判断されます。

指針には、

・業務上明らかに必要性のない言動

・業務の目的を大きく逸脱した言動

・業務を遂行するための手段として不適当な言動

・当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動

が挙げられています。

3.「労働者の就業環境が害されるもの」とは

身体的又は精神的に苦痛を与えられ、職場環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じることをいいます。

この判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」を基準とします。

(2)パワハラの代表的な言動の類型とは

指針では、「パワハラの代表的な言動の類型」として

1.身体的な攻撃

2.精神的な攻撃

3.人間関係からの切り離し

4.過大な要求

5.過小な要求

6.個の侵害

を挙げています。

そして「各類型ごとに職場におけるパワハラに該当し、又は該当しないと考えられる例」として(下記の例は限定列挙ではありません)、下記を挙げています。

1.「身体的な攻撃」とは

暴行・傷害をいい

(a)該当すると考えられる例

・殴打、足蹴りを行うこと

・相手に物を投げつけること

(b)該当しないと考えられる例

・誤ってぶつかること

2.「精神的な攻撃」とは

脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言をいい

(a)該当すると考えられる例

・人格を否定するような言動発言を行うこと。相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うことを含む。

・業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと

・他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと

・相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を当該相手を含む複数の労働者宛に送信すること

(b)該当しないと考えられる例

・遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して一定程度強く注意をすること

・その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、一定程度強く注意をすること

3.「人間関係からの切り離し」とは

隔離・仲間外し・無視をいい

(a)該当すると考えられる例

・自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりすること

・一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させること

(b)該当しないと考えられる例

・新規に採用した労働者を育成するために短期間集中的に別室で研修等の教育を実施すること

・懲戒規定に基づき処分を受けた労働者に対し、通常の業務に復帰させるために、その前に、一時的に別室で必要な研修を受けさせること

4.「過大な要求」とは

業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害をいい

(a)該当すると考えられる例

・長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずること

・新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業務目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責すること

・労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせること

(b)該当しないと考えられる例

・労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せること

・業務の繁忙期に、業務上の必要性から、当該業務の担当者に通常時よりも一定程度多い業務の処理を任せること

5.「過小な要求」とは

業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないことをいい

(a)該当すると考えられる例

・管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせること

・気に入らない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えないこと

(b)該当しないと考えられる例

・労働者の能力に応じて、一定程度業務内容や業務量を軽減すること

6.「個の侵害」とは

私的なことに過度に立ち入ることをいい

(a)該当すると考えられる例

・労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりすること

・労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること

(b)該当しないと考えられる例

・労働者への配慮を目的として、労働者の家族の状況等をヒアリングを行うこと

・労働者の了解を得て、当該労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促すこと

③雇用管理上講ずべき措置(パワハラ防止対策)とは?

事業主が「雇用管理上講ずべき措置(パワハラ防止対策)」とは

(1)事業主の方針等の明確化、その周知・啓発

(2)相談体制の整備

(3)事後の適切・迅速な対応

(4)上記(1)~(3)と併せて講ずべき措置

この(1)~(4)は、会社が講じなければならない措置(義務)であるため、実務上はこれに対応する必要があります。

対応方法は、下記の<認められる例>をご参照ください。

なお、IPO労務監査においても、IPO準備会社で「雇用管理上講ずべき措置(パワハラ防止対策)」が講じられているかどうかチェックされます。

(1)事業主の方針等の明確化、その周知・啓発とは

1.パワハラの内容及びパワハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知すること

<認められる例>

・就業規則等において、パワハラを行ってはならない旨の方針を規定し、当該規定と併せて、パワハラの内容及びその発生の原因や背景を労働者に周知・啓発すること

・社内報等広報又は啓発のための資料等にパワハラの内容及びその発生の原因や背景並びにパワハラを行ってはならない旨の方針を記載し、配布等すること

・パワハラの内容及びその発生の原因や背景並びにパワハラを行ってはならない旨の方針を労働者に対して周知・啓発するための研修、講習等を実施すること

2.パワハラに係る言動を行った者については、厳正に対処する旨の方針及び対処の内容を就業規則等に規定し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること

<認められる例>

・就業規則等において、パワハラに係る言動を行った者に対する懲戒規定を定め、その内容を労働者に周知・啓発すること

(2)相談体制の整備とは

1.相談への対応窓口を設置し、労働者に周知すること

<認められる例>

・相談に対応する担当者をあらかじめ定めること

・相談に対応するための制度を設けること

・外部の機関に相談への対応を委託すること

2.相談窓口の担当者が、相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること

<認められる例>

・相談窓口担当者と人事部門とが連携を図ることができる仕組みとすること

・相談窓口担当者が相談を受けた場合、留意点などを記載したマニュアルに基づき対応すること

・相談窓口担当者に対し、相談を受けた場合の対応についての研修を行うこと

(3)事後の適切・迅速な対応とは

1.事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること

<認められる例>

・相談窓口担当者、人事部門等が、相談者及び行為者の双方から事実関係を確認すること

・事実関係を迅速かつ正確に確認しようとしたが、確認が困難な場合などにおいて、調停の申請を行うことその他中立な第三者機関に紛争処理を委ねること

2.パワハラの事実確認ができた場合は、速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと

<認められる例>

・被害者と加害者の間の関係改善に向けての援助、被害者と行為者を引き離すための配置転換、行為者の謝罪、被害者の労働条件上の不利益の回復、管理監督署又は事業場内産業保健スタッフ等による被害者のメンタルヘルス不調への相談対応等の措置を講ずること

・調停その他中立な第三者機関の紛争解決案に従った措置を被害者に対し講ずること

3.行為者に対する措置を適正に行うこと

<認められる例>

・就業規則等に定める規定等に基づき、行為者に対して必要な懲戒その他の措置を講ずること。被害者と行為者の間に関係改善に向けての援助、被害者と行為者を引き離すための配置転換、行為者の謝罪等の措置を講ずること

・調停その他中立な第三者機関の紛争解決案に従った措置を行為者に対し講ずること

4.改めて職場におけるパワハラに関する方針を周知・啓発する等の再発防止に向けた措置を講ずること

<認められる例>

・パワハラを行ってはならない旨の方針及びパワハラに係る言動を行った者について厳正に対処する旨の方針を、社内報等広報又は啓発のための資料等に改めて掲載し、配布等すること

・労働者に対しパワハラに関する意識を啓発するための研修、講習等を改めて実施すること

(4)上記①~③と併せて講ずべき措置とは

1.相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるともに、その旨を労働者に対して周知すること

<認められる例>

・プライバシー保護のためのマニュアルを定め、相談窓口担当者が相談を受けた際は、マニュアルに基づき対応すること

・プライバシー保護のために、相談窓口担当者に必要な研修を行うこと

・プライバシー保護するために必要な措置を講じていることを、社内報等広報又は啓発のための資料等に掲載し、配布等すること

2.パワハラに関し相談等したことを理由として、解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること

<認められる例>

・就業規則等において、パワハラの相談等を理由として、労働者が解雇等不利益な取扱いをされない旨を規定し、労働者に周知・啓発すること

・社内報等広報又は啓発のための資料等に、パワハラの相談等を理由として、労働者が解雇等の不利益な取扱いをされない旨を記載し、労働者に配布等すること

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