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社労士コラム

M&A労務デューデリジェンス(DD)のポイント(高度プロフェッショナル制度)

2021.12.28M&A労務デューデリジェンス(DD)

M&A労務デューデリジェンス(DD)において、重要なチェック項目の1つとして、「高度プロフェッショナル制度」があります。

「高度プロフェッショナル制度」について、正確にその内容を把握できていないと、思わぬところで「未払い賃金」を抱えている可能性がありますので、M&A労務デューデリジェンス(DD)において、その内容を的確に把握する必要があります。

①高度プロフェッショナル制度とは?

高度プロフェッショナル制度とは、一定の年収要件(年収1,075万円以上)を満たし、職務の範囲が明確で、高度な職業能力を有する労働者について、労使委員会の決議により一定事項を決議し、その決議を所轄労働基準監督署へ届出した場合、労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定を適用しないものとする制度です。

このため、高度プロフェッショナル制度が適用される場合には、36協定の締結・届出や割増賃金の支払は必要ありません。

この点が企画業務型裁量労働制専門業務型裁量労働制の場合と異なる点です。

②高度プロフェッショナル制度導入の要件とは?

高度プロフェッショナル制度を導入するためには、労使委員会の決議(委員の5分の4以上の多数による決議)により、下記の事項を決議する必要があります。

また、当該労使委員会の決議は、所轄労働基準監督署へ届出なければなりません。

このため、M&A労務デューデリジェンス(DD)においても、下記事項を定めた労使委員会の決議がされているかどうか、そして労使委員会の決議が所轄労働基準監督署に届出されているかどうかチェックされます。

(1)適用対象となる業務

(2)対象従業員の範囲

(3)対象労働者の健康管理時間を把握すること及びその把握方法

(4)対象労働者に年間104日以上、かつ4週間を通じ4日以上の休日を与えること

(5)対象労働者の選択的措置

(6)対象労働者の健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置

(7)対象労働者の同意の撤回に関する手続き

(8)対象労働者の苦情処理措置を実施すること及びその具体的内容

(9)同意しなかった労働者に対し、不利益取扱いをしてはならないこと

(10)その他厚生労働省令で定める事項

(1)適用対象となる業務とは?

高度プロフェッショナル制度を適用できるのは、労働基準法で決まっている下記5つの業務に限定されます。

1. 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務

金融取引のリスクを減らしてより効率的に利益を得るため、金融工学ほか、統計学、数学、経済学等の知識をもって確率モデル等の作成、更新を行い、これによるシミュレーションの実施、その結果の検証等の技法を駆使した新たな金融商品の開発業務をいいます。

2. 資産運用(指図を含む。以下同じ。)の業務又は有価証券の売買その他の取引の業務のうち、投資判断に基づく資産運用の業務、投資判断に基づく資産運用として行う有価証券の売買その他の取引の業務又は投資判断に基づき自己の計算において行う有価証券の売買その他の取引の業務

金融知識等を活用した自らの投資判断に基づく資産運用の業務又は有価証券の売買その他の取引の業務をいいます。

3. 有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務

有価証券等に関する高度の専門知識と分析技術を応用して分析し、当該分析の結果を踏まえて評価を行い、これら自らの分析又は評価結果に基づいて運用担当者等に対し有価証券の投資に関する助言を行う業務をいいます。

4. 顧客の事業の運営に関する重要な事項についての調査又は分析及びこれに基づく当該事項に関する考案又は助言の業務

企業の事業運営についての調査又は分析を行い、企業に対して事業・業務の再編、人事等社内制度の改革など経営戦略に直結する業務改革案等を提案し、その実現に向けてアドバイスや支援をしていく業務をいいます。

5. 新たな技術、商品又は役務の研究開発の業務

新たな技術の研究開発、新たな技術を導入して行う管理方法の構築、新素材や新型モデル・サービスの研究開発等の業務をいい、専門的、科学的な知識、技術を有する者によって、新たな知見を得ること又は技術的改善を通じて新たな価値を生み出すことを目的として行われるものをいいます。

このように、上記5つの業務以外の業務については、高度プロフェッショナル制度は適用できませんので、注意が必要です。

M&A労務デューデリジェンス(DD)において、よくあるケースは、上記5つの業務に該当していない業務にもかかわらず、高度プロフェッショナル制度を適用しているケースです。

(2)対象従業員の範囲とは?

労働基準法によると、下記の2つの要件を満たす労働者であって、書面等によりその同意を得て対象業務に就かせようとする者の範囲を、労使委員会で決議する必要があります。

1.使用者との間の合意に基づき職務が明確に定められていること

2.使用者から支払われると見込まれる賃金額が基準年間平均給与額の3倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額(年収1,075万円)以上であること

なお、年収1,075万円については、支払われることが確実に見込まれる額をいうため、時間外手当や業績賞与は見込額に含まれませんが、賞与に最低保障額が定められているような場合には、見込額に含まれます。

また、指針によると、対象労働者は、対象業務に常態として従事していることが原則とされています。

M&A労務デューデリジェンス(DD)において、よくあるケースは、見込額に含まれない業績賞与を含めて年収1,075万円の従業員に対しても、高度プロフェッショナル制度を適用しているケースです。

(3)対象労働者の健康管理時間を把握すること及びその把握方法とは?

労働基準法によると、下記の2つの事項について、決議で明らかにしなければなりません。

対象労働者の健康管理を行うために

1.対象労働者が事業場内にいた時間と事業場外において労働した時間との合計時間(健康管理時間)を把握する措置を使用者が実施すること

2.事業場における健康管理時間の把握方法

なお、指針によると、

健康管理時間を把握する方法は

1.タイムカードによる記録

2.パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法

とされています。

このため、自己申告は原則として、認められていませんので、注意が必要です。

また、日々の健康管理時間の始期及び終期並びに健康管理時間の時間数を記録するほか、医師の面接指導を適切に実施するため、1ヵ月あたりの時間数の合計を把握する必要があり、記録の方法について決議で定めることが適当であるとされています。

さらに、健康管理時間の記録について、使用者は、対象労働者から求めがあれば、対象労働者に開示する必要があり、健康管理時間の開示手続きについても、決議に含めることが必要であるとしています。

(4)対象労働者に年間104日以上、かつ4週間を通じ4日以上の休日を与えることとは?

労働基準法によると、高度プロフェッショナル制度を導入する場合には、対象労働者に対して、年間104日以上、かつ4週間を通じ4日以上の休日を与えなければなりません。

年間104日以上の休日について、与えることができなかった場合、与えることができないと確定した時点から、高度プロフェッショナル制度の法律上の効果は生じないとされています。

このため、M&A労務デューデリジェンス(DD)においても、対象労働者に対して、年間104日以上の休日が与えられているかどうかチェックされます。

なお、年間104日以上の休日及び1週間を通じ4日以上の休日の起算日は、高度プロフェッショナル制度の適用開始日となります。

(5)対象労働者の選択的措置とは?

労働基準法によると、下記の選択的措置のうち、いずれかの措置を労使委員会の決議で選択肢し、実施する必要があります。

1.勤務間インターバルの確保(11時間以上)及び深夜業の制限(1ヵ月に4回以内)

2.健康管理時間の上限措置(1週間あたり40時間を超えた時間について、1ヵ月について100時間以内又は3ヵ月について240時間以内とすること)

3.1年に1回以上、2週間連続の休日を与えること(本人が請求した場合は、連続1週間×2回以上)

4.臨時の健康診断(1週間あたり40時間を超えた健康管理時間が1ヵ月あたり80時間を超えた労働者又は申出があった労働者が対象)

上記の選択的措置は、高度プロフェッショナル制度の導入要件であり、決議が適正になされていても、実際に措置が講じられていない場合は、高度プロフェッショナル制度の効果は生じませんので、注意が必要です。

このため、M&A労務デューデリジェンス(DD)においても、対象労働者に対して、実際に、いずれかの措置が講じられているかどうかチェックされます。

(6)対象労働者の健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置とは

労働基準法によると、健康・福祉確保措置として、下記の6つの措置のうち、いずれかの措置を講ずるかを労使委員会の決議で明らかにし、その措置を講じなければなりません。

1.選択的措置のいずれかの措置(上記(5)で定められたもの以外)

2.医師による面接指導

3.代償休日又は特別な休暇の付与

4.心とからだの健康問題についての相談窓口の設置

5.適切な部署への配置転換

6.産業医等による助言指導又は保健指導

(7)対象労働者の同意の撤回に関する手続きとは

労働基準法によると、対象労働者の同意の撤回に関する手続きを決議で定めなければならないとしています。

そして、指針では、撤回の申出先となる部署及び担当者、撤回の申出の方法等その具体的内容を明らかにすることが必要としています。

また、同意を撤回した場合の配置及び処遇について、使用者は同意を撤回した対象労働者に対して、そのことを理由として不利益に取り扱ってはならないとしています。

(8)対象労働者の苦情処理措置を実施すること及びその具体的内容とは

指針によると、苦情処理措置について、苦情の申出先となる部署及び担当者、取り扱う苦情の範囲、処理の手順、方法等その具体的内容を明らかにすることが必要とされています。

(9)同意しなかった労働者に対し、不利益取扱いをしてはならないこととは?

労働基準法によると、労働者からの同意の方法は、下記の3つの事項を明らかにした書面に、対象労働者の署名を受ける必要があります。

1.労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定が適用されないこととなる旨

2.同意の対象となる期間

3.2.の期間中に支払われると見込まれる賃金の額

さらに、労働基準法によると、同意しなかった対象労働者に対して解雇その他の不利益な取扱いをしてはならないことを決議において定めなければならないとしています。

(10)その他厚生労働省令で定める事項とは

1.決議の有効期間

労使委員会の決議の有効期間の定め及び当該決議は再度決議をしない限り更新されない旨について、労使委員会の決議が必要と定めています。

指針によると、「決議の有効期間については、1年とすることが望ましい」とされています。

2委員会の開催頻度及び開催時期

指針によると、労使委員会の開催頻度及ぶ開催時期について、労働基準監督署長への定期報告の内容に関し、労使委員会において調査審議し、必要に応じて決議を見直す観点から、少なくとも6ヵ月に1回、当該報告を行う時期に開催することが必要であるとしています。

3.医師の選任

常時50人未満の労働者を使用する事業場である場合には、労働者の健康管理を行うのに必要な知識を有する医師を選任する旨を労使委員会で決議しなければならないとしています。

4.記録の保存

次の記録を決議の有効期間中及びその期間満了後3年間保存することについて、労使委員会で決議することが必要です。

医師の選任に関する記録

対象労働者ごとの記録

1.本人同意及びその撤回

2.合意に基づき定められた職務の内容

3.支払われると見込まれる賃金の額

4.健康管理時間の状況

5.休日確保措置

6.選択的措置

7.健康・福祉確保措置

8.苦情処理措置の実施状況

M&A労務デューデリジェンス(DD)においても、上記事項について、有効期間満了後3年間保存されているかどうかチェックされます。

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