社労士コラム
IPO労務監査のチェックリスト(マタハラ等)
2021.12.21IPO労務監査
IPO労務監査において、重要なチェック項目の1つとして、「マタハラ等」があります。
「マタハラ等」について、正確にその内容を把握できていないと、思わぬところで「法的なリスク」を抱えている可能性がありますので、IPO労務監査において、その内容を的確に把握する必要があります。
男女雇用機会均等法及び育児介護休業法では、事業主に対し「マタハラ等の防止対策」が義務づけられています。
なお、詳細は「事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」、「子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置等に関する指針」に記載されています。
指針の内容は、大きく分けると
①マタハラ等の定義
②雇用管理上講ずべき措置(マタハラ等防止対策)
③望ましい取組
に分かれています。
IPO労務監査においては、①②が重要な部分となりますので、この部分を解説していきたいと思います。
目次
マタハラ等とは、大きく分けて2種類あります。
(1)妊娠、出産等に関するハラスメント
(2)育児休業等に関するハラスメント
妊娠、出産等に関するハラスメントには、上司又は同僚から行われる以下のものがあります。
・制度等の利用への嫌がらせ型
・状態への嫌がらせ型
「制度等の利用への嫌がらせ型」とは、その雇用する女性労働者の産前休暇その他の妊娠又は出産に関する制度又は措置の利用に関する言動により就業環境が害されるものをいいます。
「妊娠又は出産に関する制度又は措置」とは、具体的には、以下の1~6までの制度又は措置のことをいいます。
・妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置(母性健康管理措置)
・坑内業務の就業制限及び危険有害業務の就業制限
・産前休業
・軽易な業務への転換
・変形労働時間制がとられる場合における法定労働時間を超える労働時間の制限、時間外労働及び休日労働の制限並びに深夜業の制限
・育児時間
また、「就業環境が害されるもの」の典型的な例として、次のようなものがあります。
・解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの
女性労働者が、制度等の利用の請求等をしたい旨を上司に相談したこと、制度等の利用の請求等をしたこと、又は制度等の利用をしたことにより、上司が女性労働者に対し、解雇その他不利益な取扱いを示唆すること
・制度等の利用の請求等又は制度等の利用を阻害するもの
イ.女性労働者が制度等の利用の請求等をしたい旨を上司に相談したところ、上司が女性労働者に対し、請求等をしないように言うこと。
ロ.女性労働者が制度等の利用の請求等をしたところ、上司が女性労働者に対し、請求等を取り下げるよう言うこと。
ハ.女性労働者が制度等の利用の請求等をしたい旨を同僚に伝えたところ、同僚が女性労働者に対し、繰り返し又は継続的に請求等をしないように言うこと。
ニ.女性労働者が制度等の利用の請求等をしたところ、同僚が女性労働者に対し、繰り返し又は継続的に請求等を取り下げるように言うこと。
「状態への嫌がらせ型」とは、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したことその他の妊娠又は出産に関する言動により就業環境が害されるものをいいます。
「妊娠又は出産に関する事由」とは、具体的には、以下の1~5までの事由のことをいいます。
・妊娠したこと
・出産したこと
・坑内業務の就業制限若しくは危険有害業務の就業制限の規定により業務に就くことができないこと又はこれらの業務に従事しなかったこと
・産後の就業制限の規定により就業できず、又は産後休業をしたこと
・妊娠又は出産に起因する症状により労務の提供ができないこと若しくはできなかったこと又は労働能率が低下したこと
また、「就業環境が害されるもの」の典型的な例として、次のようなものがあります。
・解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの
女性労働者が妊娠等したことにより、上司が女性労働者に対し、解雇その他不利益な取扱いを示唆すること
・妊娠等したことにより嫌がらせ等をするもの
女性労働者が妊娠等をしたことにより、上司又は同僚が女性労働者に対し、繰り返し又は継続的に嫌がらせ等をすること
育児休業等に関するハラスメントには、上司又は同僚から行われる、その雇用する労働者に対する制度等の利用に関する言動により就業環境が害されるものがあります。
「その雇用する労働者に対する制度等」とは、具体的には、以下の1~10までの制度等のことをいいます。
・育児休業
・介護休業
・子の看護休暇
・介護休暇
・所定外労働の制限
・時間外労働の制限
・深夜業の制限
・育児のための所定労働時間の短縮措置
・始業時刻変更等の措置
・介護のための所定労働時間の短縮措置
また、「就業環境が害されるもの」の典型的な例として、次のようなものがあります。
・解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの
労働者が、制度等の利用の申出等をしたい旨を上司に相談したこと、制度等の利用の申出等をしたこと、又は制度等の利用をしたことにより、上司が労働者に対し、解雇その他不利益な取扱いを示唆すること
・制度等の利用の申出等又は制度等の利用を阻害するもの
イ.労働者が制度等の利用の申出等をしたい旨を上司に相談したところ、上司が労働者に対し、申出等をしないように言うこと。
ロ.労働者が制度等の利用の申出等をしたところ、上司が労働者に対し、申出等を取り下げるよう言うこと。
ハ.労働者が制度等の利用の申出等をしたい旨を同僚に伝えたところ、同僚が労働者に対し、繰り返し又は継続的に申出等をしないように言うこと。
ニ.労働者が制度等の利用の申出等をしたところ、同僚が労働者に対し、繰り返し又は継続的に申出等を撤回又は取り下げるように言うこと。
・制度等の利用したことにより嫌がらせ等をするもの
労働者が制度等の利用をしたことにより、上司又は同僚が労働者に対し、繰り返し又は継続的に嫌がらせ等をすること
事業主が「雇用管理上講ずべき措置(マタハラ等防止対策)」とは
(1)事業主の方針等の明確化、その周知・啓発
(2)相談体制の整備
(3)事後の適切・迅速な対応
(4)要因を解消するための措置
(5)上記(1)~(4)と併せて講ずべき措置
この(1)~(5)は、会社が講じなければならない措置(義務)であるため、実務上はこれに対応する必要があります。対応方法は、下記の<認められる例>をご参照ください。
なお、IPO労務監査においても、IPO準備会社で雇用管理上講ずべき措置(マタハラ等防止対策)が講じられているかどうかチェックされます。
1.職場におけるマタハラ等に関するハラスメントの内容及びマタハラ等に関する否定的な言動が職場におけるマタハラ等に関するハラスメントの発生の原因や背景となり得ること、職場におけるマタハラ等に関するハラスメントを行ってはならない旨の方針並びに制度等の利用ができる旨を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること
<認められる例>
・就業規則等において、事業主の方針及び制度等の利用ができる旨について規定し、当該規定と併せて、ハラスメントの内容及びハラスメントの背景等を、労働者に周知・啓発すること
・社内報等広報又は啓発のための資料等にハラスメントの内容及びハラスメントの背景等、事業主の方針並びに制度等の利用ができる旨について記載し、配布等すること
・ハラスメントの内容及びハラスメントの背景等、事業主の方針並びに制度等の利用ができる旨を労働者に対して周知・啓発するための研修、講習等を実施すること
2.職場におけるマタハラ等に関するハラスメントに係る言動を行った者については、厳正に対処する旨の方針及び対処の内容を就業規則等に規定し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること
<認められる例>
・就業規則等において、職場におけるマタハラ等に関するハラスメントに係る言動を行った者に対する懲戒規定を定め、その内容を労働者に周知・啓発すること
・職場におけるマタハラ等に関するハラスメントに係る言動を行った者は、現行の就業規則等において定められている懲戒規定の適用の対象となる旨を明確化し、これを労働者に周知・啓発すること
1.相談への対応窓口を設置し、労働者に周知すること
<認められる例>
・相談に対応する担当者をあらかじめ定めること
・相談に対応するための制度を設けること
・外部の機関に相談への対応を委託すること
2.相談窓口の担当者が、相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること
<認められる例>
・相談窓口担当者と人事部門とが連携を図ることができる仕組みとすること
・相談窓口担当者が相談を受けた場合、留意点などを記載したマニュアルに基づき対応すること
・相談窓口担当者に対し、相談を受けた場合の対応についての研修を行うこと
1.事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること
<認められる例>
・相談窓口担当者、人事部門等が、相談者及び行為者の双方から事実関係を確認すること
・事実関係を迅速かつ正確に確認しようとしたが、確認が困難な場合などにおいて、調停の申請を行うことその他中立な第三者機関に紛争処理を委ねること
2.職場におけるマタハラ等に関するハラスメントが生じた事実確認ができた場合は、速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと
<認められる例>
・被害者の職場環境の改善又は迅速な制度等の利用に向けての環境整備、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、行為者の謝罪、管理監督署又は事業場内産業保健スタッフ等による被害者のメンタルヘルス不調への相談対応等の措置を講ずること
・調停その他中立な第三者機関の紛争解決案に従った措置を被害者に対し講ずること
3.行為者に対する措置を適正に行うこと
<認められる例>
・就業規則等に定める規定等に基づき、行為者に対して必要な懲戒その他の措置を講ずること。被害者と行為者の間に関係改善に向けての援助、行為者の謝罪等の措置を講ずること
・調停その他中立な第三者機関の紛争解決案に従った措置を行為者に対し講ずること
4.改めて職場におけるマタハラ等に関するハラスメントに関する方針を周知・啓発する等の再発防止に向けた措置を講ずること
<認められる例>
・事業主の方針、制度等の利用ができる旨及びマタハラ等に関するハラスメントに係る言動を行った者について厳正に対処する旨の方針を、社内報等広報又は啓発のための資料等に改めて掲載し、配布等すること
・労働者に対しマタハラ等に関するハラスメントに関する意識を啓発するための研修、講習等を改めて実施すること
マタハラ等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するため、業務体制の整備など、事業主や妊娠等した労働者・制度等の利用を行う労働者その他の労働者の実情に応じ、必要な措置を講じなければならない
<認められる例>
・妊娠等した労働者・制度等の利用を行う労働者の周囲の労働者への業務の偏りを軽減するよう、適切に業務分担の見直しを行うこと
・業務の点検を行い、業務の効率化等を行うこと
1.相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるともに、その旨を労働者に対して周知すること
<認められる例>
・プライバシー保護のためのマニュアルを定め、相談窓口担当者が相談を受けた際は、マニュアルに基づき対応すること
・プライバシー保護のために、相談窓口担当者に必要な研修を行うこと
・プライバシー保護するために必要な措置を講じていることを、社内報等広報又は啓発のための資料等に掲載し、配布等すること
2.マタハラ等に関するハラスメントの相談等したことを理由として、解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること
<認められる例>
・就業規則等において、マタハラ等に関するハラスメントの相談等を理由として、労働者が解雇等不利益な取扱いをされない旨を規定し、労働者に周知・啓発すること
・社内報等広報又は啓発のための資料等に、マタハラ等に関するハラスメントの相談等を理由として、労働者が解雇等の不利益な取扱いをされない旨を記載し、労働者に配布等すること