社労士コラム
IPO労務監査のチェックリスト(管理監督者)
2021.09.22IPO労務監査
IPO労務監査において、重要なチェック項目の1つとして、「労働基準法上の管理監督者」があります。
「労働基準法上の管理監督者とは何か?」について、把握できていないと、思わぬところで「未払い賃金」が発生している可能性がありますので、IPO労務監査においてその内容を的確に把握する必要があります。
目次
労働基準法第41条では、労働基準法で定める「労働時間、休憩及び休日」に関する規定につき、下記に定める労働者については、その適用が除外されています。
(1)農業、畜産、養蚕、水産の事業に従事する者
(2)事業の種類にかかわらず「監督若しくは管理の地位にある者」又は機密の事務を取り扱う者
(3)監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けた者
ここで言う上記(2)の「監督若しくは管理の地位にある者」が、いわゆる「労働基準法上の管理監督者」です。
なお、労働基準法第41条により適用が除外される規定は、「労働時間、休憩及び休日」に関する規定で、具体的には下記の規定が適用除外となります。
・第32条(労働時間)
・第33条、36条(時間外労働、休日労働)
・第34条(休憩)
・第35条(休日)
・第37条(時間外、休日の割増賃金:深夜は除く)
・第38条(時間計算)
・第38条の2(事業場外労働みなし制)
・第38条の3(専門業務型裁量労働制)
・第38条の4(企画業務型裁量労働制)
・第40条(労働時間及び休憩の特例)
・第60条(年少者の労働時間及び休日)
・第66条(妊産婦の労働時間及び休日)
・第67条(育児時間)
ただし、年次有給休暇については、適用が除外されていませんので、年次有給休暇は通常通り、付与する必要があります。
また、深夜業についても、適用が除外されていませんので、深夜時間帯に勤務する場合には、深夜の割増賃金を支払う必要がありますので、ご注意ください。
IPO労務監査においても、「労働基準法上の管理監督者」に対して、深夜割増賃金を支給していないケースが散見されますので、注意が必要です。
そこで、IPO労務監査において、問題となりやすいIPO準備会社における「管理職」と「労働基準法上の管理監督者」の違いについて見ていきたいと思います。
なぜなら、IPO労務監査において、多くのIPO準備会社で「管理職」(例えば、課長)については、「監督若しくは管理の地位にある者」の規定を根拠として、割増賃金は支払わないといった運用がされているからです。
しかし、IPO準備会社内で決めた「管理職」であれば、「労働基準法上の管理監督者」に該当するか、という問題があります。
通達によると、「監督若しくは管理の地位にある者(労働基準法上の管理監督者)とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にある者をいい、名称にとらわれず、職務内容、責任・権限、勤務態様など実態に即し判断すべきもの」とされています。
したがって、労働基準法上の「管理監督者」かどうかは、名称(課長・部長)とは関係なく、実態に基づいて判断されます。
つまり、IPO準備会社が「管理職」として扱えば、誰でも労働基準法上の「管理監督者」として認められる訳ではありません。
このため、IPO準備会社組織上の「管理職」が、労働基準法上の「管理監督者」と認められない場合は、時間外労働等に対して割増賃金が支払われていないことになるため、割増賃金の未払が発生しています(通常、「管理職」には役職手当を支給し、割増賃金は支払っていないため)ので、注意が必要です。
IPO労務監査においても、この点は最重要チェック項目です。
そこで、そもそも「監督若しくは管理の地位にある者」とは、具体的にどういう人のことを言うのでしょうか?
実は、労働基準法上の「監督若しくは管理の地位にある者」については、どういう人が該当するのかについて、現時点で最高裁判例はなく、明確な判断基準が示されているわけではありません。
そこで、実務ではいろいろな下級審判決や通達等を基にその判断基準を模索することになりますが、まずは労働基準法の立法経緯等から判断基準を考えていきたいと思います。
労働基準法上は、文言自体から明らかなとおり、「監督」の地位と「管理」の地位は、明確に区分されています。
そして、立法段階で厚生省労政局労働保護課が作成した「労働基準法案解説及び質疑応答」において、「監督の地位にある者」と「管理の地位にある者」を下記のように定義しています。
「監督」の地位にある者
→ 労働者に対する関係に於て使用者のために労働状況を観察し労働条件の履行を確保する地位にある者
「管理」の地位にある者
→ 労働者の採用、解雇、昇格、転勤等人事管理の地位にあるもの
このため、「監督若しくは管理の地位にある者」には、「監督の地位にある者」と「管理の地位にある者」が含まれ、どちらかに該当する労働者は「監督若しくは管理の地位にある者」に該当すると考えられます。
このため、IPO労務監査においては、IPO準備会社内で決めた管理職が「監督」若しくは「管理」の業務のいずれかを行っているかどうかの確認が必要となります。
次に裁判所が「労働基準法上の管理監督者」について、どのように判断しているのかについて見ていきたいと思います。
裁判所が判断する際の基準は、
(1)職務内容、権限および責任が、どのように事業経営に関与するものであるか、企業の労務管理にどのように関与しているのか?
(2)勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか?
(3)賃金等の待遇はどうなのか?
という3つのポイントから総合的に判断しているケースが多く見られます。
具体的には、
(1)職務内容が、少なくともある部門全体の統括的な立場にあるかどうか?
(2)部下に対する労務管理上の決定権等について、一定の裁量権を有しており、部下に対する人事考課、機密事項に接しているかどうか?
(3)管理職手当等の特別手当が支給され、待遇において、時間外手当が支給されていないことを十分に補っているかどうか?
(4)自己の出退勤について、自ら決定しうる権限があるかどうか?
という要件を満たす必要があるとの判断基準を提示したものがあります。
IPO労務監査においても、上記のような判断基準を基に、IPO準備会社の管理職が「労働基準法上の管理監督者」に該当するかどうかをチェックします。
特にIPO労務監査上、問題となるのが、プレイング・マネージャーが「労働基準法上の管理監督者」に該当するかどうかの判断です。
プレイング・マネージャーとは、自らも業務を行い、かつマネジメントも行う管理職のことをいいます。
このプレイング・マネージャーが「労働基準法上の管理監督者」に該当するかどうかの判断基準は、マネジメント部分と、プレイ部分の割合だと思われます。
つまり、自らが管理される人たちと同じような種類の業務を行っていて、プラスアルファで部下のマネジメントを行っている人については、その割合が問題となります。
例えば、自らも営業活動を行いながら、部下のマネジメントも行っている場合などです。
過去の判例上、明確な基準は示されていませんが、一般的には
(1)マネジメント部分の割合がプレイ部分の割合より相当に多い場合、「労働基準法上の管理監督者」として肯定されやすく。
(2)プレイ部分の割合がマネジメント部分の割合より相当に多い場合、「労働基準法上の管理監督者」として否定される可能性が高いと思われます。
IPO労務監査においても、この点は注意を要します。