社労士コラム
IPO労務監査時の未払い残業代への7つの対応策とは?
2021.09.10IPO労務監査
IPO労務監査を実施し、未払い残業代が発見された場合の、7つの対応策についてお話します。
IPO労務監査において、未払い残業代が発見された場合の対応策として、「変形労働時間制の活用」があります。
変形労働時間制とは、ある一定の期間(1ヵ月、1年など)を平均して1週40時間以内であれば、特定の日に8時間を超えて、特定の週に40時間を超えて労働させることができる制度です。
つまり、通常(変形労働時間制を導入していない場合)、1日8時間、1週40時間を超えて、会社の所定労働時間を定めることができないのですが、変形労働時間制を導入すると、1日8時間、1週40時間を超えて、所定労働時間を定めることができます。
例えば、土日休みの会社で、所定労働時間を月・火・水・木は9時間、金は4時間と定めたい場合、この制度の活用が必要です(1週40時間は満たしていますが、1日8時間を超えているため、変形労働時間制の導入が必要です)。
この場合、月・火・水・木は9時間働いていますが、残業代を支給する必要はありません。
また、第1週は36時間、第2週は44時間と定めたい場合も、この制度の活用が必要です(第2週が1週40時間を超えているため、変形労働時間制の導入が必要です)。
この場合も、第2週は44時間働いていますが、残業代を支給する必要はありません。
変形労働時間制は、月初は比較的暇で月末は忙しい、あるいは夏は忙しいけれど、冬は比較的暇であるなど、月間・年間で繁閑の差がはっきりしている事業場で使いやすい制度です。
なお、変形労働時間制の導入は、あくまでも例外として認められている制度なので、就業規則に規定したり、労使協定を締結したりするなど、一定の手続きが必要なため、注意が必要です。
当然、IPO労務監査時に変形労働時間制を導入している会社については、変形労働時間制導入の要件が満たされているかどうかはチェックされます。
IPO労務監査において、未払い残業代が発見された場合の対応策として 、「みなし労働時間制の活用」があります。
みなし労働時間制とは、実際の労働時間数にかかわらず「労使間で決定した労働時間(例えば8時間)」を勤務したものとみなすことができる制度です。
つまり、実際の労働時間が10時間であっても、8時間働いたものとみなされます。
この場合、実際の労働時間が10時間であっても、8時間を超えた時間について、残業代を支給する必要はありません。
逆に、実際の労働時間が6時間であっても、8時間働いたものとみなされます。
この場合、実際の労働時間が6時間であっても、6時間に満たない時間について、賃金を減額することはできません。
ただし、この制度を活用できるのは、営業職、専門職、研究職、企業の企画部門で働く人などに限られます。
また、みなし労働時間制の導入は、あくまでも例外として認められている制度なので、就業規則に規定したり、労使協定を締結したりするなど、一定の手続きが必要なため注意が必要です。
こちらも、IPO労務監査時にみなし労働時間制を導入している会社については、みなし労働時間制導入の要件が満たされているかどうかはチェックされます。
IPO労務監査において、未払い残業代が発見された場合の対応策として 、「 定額残業代の導入」があります。
定額残業代とは、例えば基本給の中に「月30時間分の残業代」が含まれているという制度です。
つまり、実際の残業時間が月30時間以内であれば、別途残業代を支給する必要はありません。
ただし、実際の残業時間が月30時間を超えた場合は、超えた時間分の残業代は支給しなければなりません。
この定額残業代をうまく活用することにより、不要な残業代を削減することができます。
ただし、合法的に導入するためには、
(1)「基本給」と「残業代部分」が明確にされている
(2) 「残業代部分」は、 残業代として就業規則、雇用契約書等に明記されている
(3)(2)を超えた場合には別途、残業代が支払われている
ことが必要であるため、注意が必要です。
こちらも、IPO労務監査時に定額残業代を導入している会社については、定額残業代導入の要件が満たされているかどうかはチェックされます。
IPO労務監査において、未払い残業代が発見された場合の対応策として 、「名ばかり管理職への対応」が挙げられます。
名ばかり管理職とは、会社で決めた管理職のうち、「労働基準法上に定める管理監督者」に該当していないのにもかかわらず、残業代の支払を受けていない管理職のことを言います。
つまり、経営者が「管理職だから残業代は払っていない」と主張しても、会社で決めた管理職が、「労働基準法上の管理監督者」に該当しない場合は、遡って残業代を支払わなければなりません。
「管理職になれば、残業代は支払わなくてもいい」と考える経営者の方は、まだまだ多いようですが、そうではありません。
行政通達によれば、「管理監督者」として認められるためには、少なくとも下記の3つの要件が必要です。
(1)経営者と一体的な立場としての職務権限が付与されていたか
(2)出退勤に裁量の自由が認められていたか
(3)管理監督者としてふさわしい待遇を受けていたか
労働基準法上の「管理監督者」と認められるには、一般に思っている以上に相当ハードルが高いため、社内でどの役職から(残業代を支払わない)管理職とするのか、IPO労務監査においても、その線引きが重要となります。
IPO労務監査において、未払い残業代が発見された場合の対応策として 、 「特例措置対象事業場の活用」があります。
特例措置対象事業場とは、通常、1週間の労働時間は40時間以内ですが、一定の事業場については、特例で1週間44時間以内の労働時間が認められている事業場のことをいいます。
つまり、一定の事業場であれば、通常より1週間につき4時間多く働かせても、割増賃金を支払う必要がありません。
一定の事業所とは、常時10人未満の
(1)商業
(2)映画・演劇業
(3)保健衛生業
(4)接客娯楽業
の事業場です。
常時10人未満の事業場とは、会社全体ではなく、支店、店舗、工場等の事業場単位の人数であるため、会社全体の従業員が100名でも、各店舗単位の人数が10人未満であれば、該当するので活用できます。
IPO労務監査において、未払い残業代が発見された場合の対応策として 、「年俸制適用対象者への対応」があります。
年俸制とは、給与の額を年単位で決める制度のことをいいます。
年俸制であっても、みなし労働時間制の適用や、労働基準法上の管理監督者に該当しないに限り、残業代は別途支払わなければならないため注意が必要です。
別途残業代を支払わなければならない年俸制適用対象者については、年俸金額に残業代が含まれているのであれば、「所定時間内の賃金」と「残業代」を明確に分けておく必要があります。
IPO労務監査において、未払い残業代が発見された場合の対応策として 、「 残業事前申請・許可制の導入」があります。
残業とは、あくまでも業務命令であって、社員に認められた権利ではありません。
しかしながら、社員が勝手に残業をしても、会社が黙認していれば、残業代が発生してしまいます(後日、社員から未払い残業代として請求される可能性があります)。
この問題を解決するために、「残業=業務命令」であることを明確にし、社員が残業を希望する場合は、事前に上長に申請し、許可を得なければ残業ができないルールにし、不要な残業代が発生しないようにします。