M&A労務デューデリジェンス(DD)のポイント(事業場外みなし労働時間制) IPO労務監査・M&A労務デューデリジェンス(DD)なら
名古屋のユナイテッド・パートナーズ社労士事務所

社労士コラム

M&A労務デューデリジェンス(DD)のポイント(事業場外みなし労働時間制)

2021.12.14M&A労務デューデリジェンス(DD)

M&A労務デューデリジェンス(DD)において、重要なチェック項目の1つとして、「事業場外みなし労働時間制」があります。

「事業場外みなし労働時間制」について、正確にその内容を把握できていないと、思わぬところで「未払い賃金」を抱えている可能性がありますので、M&A労務デューデリジェンス(DD)において、その内容を的確に把握する必要があります。

①事業場外みなし労働時間制とは?

事業場外みなし労働時間制とは、労働者が労働時間の全部又は一部について、事業場外で業務に従事した場合で、労働時間の把握が困難なものについては、原則として所定労働時間労働したものとみなす制度です。

M&A労務デューデリジェンス(DD)において、よくあるケースは、事業場外で業務に従事しているだけで(労働時間の算定が可能なのにもかかわらず)、みなし労働時間制を適用しているケースです。

②3つの算定方法

事業場外みなし労働時間制には、下記の3つの算定方法があります。

(1)所定労働時間みなし

「労働者が労働時間の全部又は一部について、事業場外で業務に従事した場合で、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす」というものです。

例えば、1日の所定労働時間が8時間の会社においては、8時間労働したものとみなすというものです。

(2)通常労働時間みなし

「事業場外労働を遂行するためには、通常所定労働時間を超えて労働することが必要な場合は、事業場外労働を遂行するために通常必要とされる時間労働したものとみなす」というものです。

例えば、1日の所定労働時間が8時間では足らず、通常9時間必要という場合には、9時間労働したものとみなすものです。

(3)労使協定みなし

「(2)において、労使協定が締結されている場合には、その協定で定められた時間を事業場外労働の遂行に通常必要とされる時間」とみなす、というものです。

例えば、(2)通常労働時間みなしにおいて、その通常必要とされる時間を労使協定で9時間とみなした場合は、9時間労働したものとみなすというものです。

なお、労使協定みなしを採用する場合で、通常必要とされる時間が法定労働時間を超える場合は、労使協定を所轄労働基準監督署へ届出する必要があります。

M&A労務デューデリジェンス(DD)においても、上記労使協定が所轄労働基準監督署へ届出されているかどうか、チェックされます。

③「通常労働時間みなし」と「労使協定みなし」との違いとは?

「労使協定みなし」を採用している場合は、みなした労働時間の正当性について、労使双方が反論、反証することができません。

なぜなら、労使協議の上、みなし労働時間を決定しているからです。

反対に「通常労働時間みなし」の場合は、使用者がその裁量により「通常必要とされる時間」を算定するため、その正当性について、労働者は反論、反証できます。

つまり、使用者が一方的にみなし労働時間を決定しているからです。

④事業外みなし労働時間制適用の要件とは?

事業外みなし労働時間制を適用するためには、下記の要件を満たす必要があります。

(1)事業場外の業務に従事すること

(2)労働時間を算定し難いとき

(1)「事業場外の業務に従事すること」

事業場外労働みなし労働時間制が適用されるためには、「事業場外」で業務に従事することが必要です。

労働基準法によると、「事業とは、工場、鉱山、事務所、店舗等の如く一定の場所において相関連する組織のもとに業として継続的に行われる作業の一体」とされ、1つの事業であるかどうかは、主として場所的同一性で決定されます。

つまり、支店や工場をそれぞれ1つの事業として扱い、その事業の行われる場所が「事業場」となります。

そして、業務の全部又は一部を「事業場外」で行う場合が、この要件に該当します。

例えば、外交員・セールスマン、新聞記者やテレビ放送のための取材に従事する労働者などが考えられます。

(2)「労働時間を算定し難いとき」

使用者には、本来、労働時間把握義務が課されているため、労働者の労働時間を把握する必要があります。

しかし、労働時間を把握することが困難なときにまで、その義務を強制するのは、不可能を強いることになります。

そこで、事業外みなし労働時間制では、「労働時間を算定し難い」場合に限って、労働時間把握義務を免除しています。

この「し難い」とは、「それをするのが容易でない。困難である。」という意味ですので、注意が必要です。

(3)事業場外みなし労働時間制を適用できない場合

なお、行政通達によると、事業場外みなし労働時間制を適用できない場合として、下記の3つの基準を挙げています。

a.メンバーの中に労働時間を管理する者がいる場合

何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で、そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合です。

何人かのグループ行動自体が、適用を否定するわけではなく、その中で労働時間を管理する者がいる場合が要件となります。

b.随時使用者の指示を受けながら労働している場合

事業場外で業務に従事するが、無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合です。

例えば、特定の業務終了後に、その都度上司に連絡し、次の指示を仰ぐことを繰り返す場合がこれに該当します。

また、単に携帯電話を持たせること、イコール「随時指示を受けること」ではありませんので、ご注意下さい。

c.事業場外で指示どおりに業務に従事し、その後、事業場へ戻る場合

事業場において、訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けたのち、事業場外で指示どおりに業務に従事し、その後、事業場へ戻る場合です。

行動パターンが、時刻を含めて相当程度に管理されている場合は、事業場外みなし労働時間制の適用が否定される可能性が高いため、注意が必要です。

M&A労務デューデリジェンス(DD)においても、事業場外みなし労働時間制を適用している事業場があった場合、上記通達の3つの基準に該当していないかどうかチェックされます。

TOP