M&A労務デューデリジェンス(DD)のポイント(企画業務型裁量労働制) IPO労務監査・M&A労務デューデリジェンス(DD)なら
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社労士コラム

M&A労務デューデリジェンス(DD)のポイント(企画業務型裁量労働制)

2021.11.30M&A労務デューデリジェンス(DD)

M&A労務デューデリジェンス(DD)において、重要なチェック項目の1つとして、「企画業務型裁量労働制」があります。

「企画業務型裁量労働制」について、正確にその内容を把握できていないと、思わぬところで「未払い賃金」を抱えている可能性がありますので、M&A労務デューデリジェンス(DD)において、その内容を的確に把握する必要があります。

①企画業務型裁量労働制とは?

企画業務型裁量労働制とは、労働基準法上定められた業務について、労使委員会の決議によって、みなし労働時間数等を定めた場合、実際に労働した労働時間数にかかわらず、労使委員会の決議で定めた時間を労働時間とみなす制度です。

なお、企画業務型裁量労働制についても、専門業務型裁量労働制と同様に、休憩時間、休日、時間外・休日労働、深夜労働の労働基準法上の規制は適用されます。

このため、企画業務型裁量労働制の場合でも、休憩時間を付与する必要がありますし、みなし労働時間数が法定労働時間を超える場合や法定休日に働かせる場合は、36協定の締結・届出と割増賃金の支払が必要ですし、深夜労働についても割増賃金を支払う必要があります。

M&A労務デューデリジェンス(DD)においても、上記事項はチェックされます。

②企画業務型裁量労働制導入の要件とは?

企画業務型裁量労働制を導入するためには、労使委員会の決議(委員の5分の4以上の多数による決議)により、下記の事項を決議する必要があります。

また、当該労使委員会の決議は、所轄労働基準監督署へ届出なければなりません。

このため、M&A労務デューデリジェンス(DD)においても、下記事項を定めた労使委員会の決議がされているかどうか、そして労使委員会の決議が所轄労働基準監督署に届出されているかどうかチェックされます。

(1)適用対象となる業務

(2)対象従業員の範囲

(3)労働時間として算定される時間

(4)対象業務に従事する労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康及び福祉を確保するための措置

(5)対象業務に従事する労働者からの苦情処理に関する措置

(6)本制度の適用について、労働者本人の同意を得なければならないこと及び不同意の労働者に対し、不利益取扱いをしてはならないこと

(7)決議の有効期間

(8)(4)~(6)に関し、労働者ごとに講じた措置及び同意の記録を決議の有効期間及びその期間満了後3年間保存すること

(1)適用対象となる業務とは?

企画業務型裁量労働制を適用できるのは、労働基準法で決まっている下記4つの要件を満たした業務に限定されます。

<事業の運営に関する事項についての業務>

「事業の運営に関する事項」とは、対象事業場の属する企業等に係る事業の運営に影響を及ぼす事項又は当該事業場に係る事業の運営に影響を及ぼす独自の事業計画や営業計画をいい、対象事業場における事業の実施に関する事項が直ちにこれに該当するものではなく、例えば、次のように考えられています。

(イ)本社・本店である事業場において、その属する企業全体に係る管理・運営とあわせて対顧客営業を行っている場合、当該本社・本店である事業場の管理・運営を担当する部署において策定される当該事業場の属する企業全体の営業方針については「事業の運営に関する事項」に該当します。

なお、当該本社・本店である事業場の対顧客営業を担当する部署に所属する個々の営業担当者が担当する営業については「事業の運営に関する事項」に該当しません。

(ロ)事業本部である事業場における当該事業場の属する企業等が取り扱う主要な製品・サービス等について事業計画については「事業の運営に関する事項」に該当します。

(ハ)地域本社や地域を統轄する支社・支店等である事業場における、当該事業場の属する企業等が事業活動の対象としている主要な地域における生産、販売等についての事業計画や営業計画については「事業の運営に関する事項」に該当します。

(ニ)工場等である事業場において、本社・本店である事業場の具体的な指示を受けることなく独自に策定する、当該事業場の属する企業等が取り扱う主要な製品・サービス等についての事業計画については「事業の運営に関する事項」に該当します。

なお、個別の製造等の作業や当該作業に係る工程管理は「事業の運営に関する事項」に該当しません。

(ホ)支社・支店等である事業場において、本社・本店である事業場の具体的な指示を受けることなく独自に策定する、当該事業場を含む複数の支社・支店等である事業場に係る事業活動の対象となる地域における生産、販売等についての事業計画や営業計画については「事業の運営に関する事項」に該当します。

(ヘ)支社・支店等である事業場において、本社・本店である事業場の具体的な指示を受けることなく独自に策定する、当該事業場のみに係る事業活動の対象となる地域における生産、販売等についての事業計画や営業計画については「事業の運営に関する事項」に該当します。

なお、本社・本店又は支社・支店等である事業場の具体的な指示を受けて行う個別の営業活動は「事業の運営に関する事項」に該当しません。

<企画、立案、調査及び分析の業務>

「企画、立案、調査及び分析の業務」とは、「企画」、「立案」、「調査」及び「分析」という相互に関連し合う作業を組み合わせて行うことを内容とする業務のことをいいます。

ここでいう「業務」とは、部署が所掌する業務ではなく、個々の労働者が使用者に遂行を命じられた業務のことをいいます。

したがって、対象事業場に設けられた企画部、調査課等の「企画」、「立案」、「調査」又は「分析」に対応する語句をその名称に含む部署において行われる業務の全てが直ちに「企画、立案、調査及び分析の業務」に該当するものではありません。

<当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務>

「当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある」業務とは、使用者が主観的にその必要があると判断しその遂行の方法を大幅に労働者にゆだねている業務をいうものではなく、当該業務の性質に照らし客観的にその必要性が存するものであることが必要です。

<当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、使用者が具体的な指示をしないこととする業務>

「当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務」とは、当該業務の遂行に当たり、その内容である「企画」、「立案」、「調査」及び「分析」という相互に関連し合う作業をいつ、どのように行うか等についての広範な裁量が、労働者に認められている業務のことをいいます。

したがって、日常的に使用者の具体的な指示の下に行われる業務や、あらかじめ使用者が示す業務の遂行方法等についての詳細な手順に即して遂行することを指示されている業務は、これに該当しません。

このため、上記4要件を満たした業務以外の業務については、企画業務型裁量労働時間制は適用できませんので、注意が必要です。

M&A労務デューデリジェンス(DD)において、よくあるケースは、上記4要件を満たしていない業務にもかかわらず、裁量労働扱いをしているケースです。

(2)対象従業員の範囲とは?

労働基準法によると、対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者であって、決議で定める時間労働したものとみなされることとなる者の範囲について、労使委員会で決議する必要があります。

なお、指針によると、「対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者」であって使用者が対象業務に就かせる者は、対象業務に常態として従事していることが原則とされています。

また、「対象業務を適切に遂行するために必要となる具体的な知識、経験等を有する労働者」の範囲については、対象業務ごとに異なり得るものであり、このため、対象労働者となり得る者の範囲を特定するために必要な職務経験年数、職能資格等の具体的な基準を明らかにすることが必要であるとされています。

労使委員会において、対象労働者となり得る者の範囲について決議するに当たっては、委員は、客観的にみて対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有しない労働者を含めて決議した場合、使用者が当該知識、経験等を有しない労働者を対象業務に就かせても企画業務型裁量労働制の労働時間のみなしの効果は生じないものであることに留意することが必要です。

例えば、大学の学部を卒業した労働者であって全く職務経験がないものは、客観的にみて対象労働者に該当し得ず、少なくとも3年ないし5年程度の職務経験を経た上で、対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者であるかどうかの判断の対象となり得るものであることに留意することが必要です。

M&A労務デューデリジェンス(DD)において、よくあるケースは、未経験で入社間もない従業員に対しても、企画業務型裁量労働制を適用しているケースです。

(3)労働時間として算定される時間とは?

(1)の適用対象となる業務に従事する労働者の労働時間として算定される時間(みなし労働時間数)を労使委員会で決議する必要があります。

なお、指針によると、「労使委員会で決議する時間は、1日あたりの労働時間」とされています。

例えば、労使委員会の決議で1日の労働時間は9時間とみなすと定めた場合は、実際の労働時間が10時間であっても、9時間働いたものとみなされます。

(4)対象業務に従事する労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康及び福祉を確保するための措置とは?

労働基準法によると、労使委員会で、「対象業務に従事する労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康及び福祉を確保するための措置」を決議する必要があります。

なお、指針によると、「労働時間の状況に応じた当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置」を当該決議で定めるところにより使用者が講ずることについては、次のいずれにも該当する内容のものであることが必要であるとされています。

1.使用者が対象労働者の労働時間の状況等の勤務状況を把握する方法として、当該対象事業場の実態に応じて適当なものを明らかにしていること。その方法としては、いかなる時間帯にどの程度の時間在社し、労務を提供しうる状態にあったかなどを明らかにしうる出退勤時刻又は入退室時刻の記録等によるものであること。

2.上記により把握した勤務状況に基づいて、対象労働者の勤務状況に応じ、使用者がいかなる健康・福祉確保措置をどのように講ずるかを明確にするものであること。

例えば、下記のような決議です。

対象従業員の健康と福祉を確保するために、以下の各号に定める措置を講ずるものとする。

①対象従業員の健康状態を把握するために次の措置を実施する。

a)所属長は、週間業務報告書の記録により、対象従業員の在社時間を把握する。

b)対象従業員は、2ヵ月に1度、自己の健康状態について所定の「健康状態自己診断カード」を記入の上、所属長に提出する。

c)所属長は、b)の「健康状態自己診断カード」を受領後、速やかに対象従業員毎に健康状態等についてのヒアリングを実施する。

②使用者は、前号の結果を取りまとめ、必要と認めるときには、次の措置を実施する。

a)定期健康診断とは別に、特別健康診断を実施する。

b)特別休暇を付与する。

③精神・身体両面の健康についての相談室を総務部に設置する。

(5)対象業務に従事する労働者からの苦情処理に関する措置とは?

労働基準法によると、労使委員会の決議で、「対象業務に従事する労働者からの苦情処理に関する措置」を定める必要があります。

そして、指針によると、「苦情処理措置については、苦情の申出の窓口及び担当者、取り扱う苦情の範囲、処理の手順・方法等その具体的内容を明らかにするものであることが必要」とされています。

例えば、下記のような決議です。

対象従業員から苦情等があった場合には、以下の各号に定める手続に従い、対応するものとする。

①裁量労働相談室を次のとおり開設する。

a)場所   総務部

b)開設日時 毎週○曜日 ○時から○時

c)相談員  ○○

②取り扱う苦情の範囲は次のとおりとする。

 a)裁量労働制の運用に関する全般の事項

b)対象労働者に適用している人事評価制度、及びこれに対応する賃金制度等の処遇制度全般

③相談者の秘密を厳守し、プライバシーの保護に努める。

(6)本制度の適用について、労働者本人の同意を得なければならないこと及び不同意の労働者に対し、不利益取扱いをしてはならないこと

指針によると、「当該労働者の同意は、当該労働者ごとに、かつ、決議の有効期間ごとに得られるものであることが必要である」とされています。

(7)協定の有効期間とは?

行政通達によれば、「労使協定の有効期間については、不適切に制度が運用されることを防ぐため、3年以内が望ましい」とされています。

(8)(4)~(6)に関し、労働者ごとに講じた措置及び同意の記録を決議の有効期間及びその期間満了後3年間保存すること

次の事項を決議の有効期間中及びその期間満了後3年間保存することについて、労使委員会で決議することが必要です。

1.対象労働者の労働時間の状況並びに対象労働者の健康・福祉確保措置の状況

2.対象労働者からの苦情処理措置の状況

3.同意

M&A労務デューデリジェンス(DD)においても、上記事項について、有効期間満了後3年間保存されているかどうかチェックされます。

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