社労士コラム
M&A労務デューデリジェンス(DD)のチェックポイント(専門業務型裁量労働制)
2021.11.22M&A労務デューデリジェンス(DD)
M&A労務デューデリジェンス(DD)において、重要なチェック項目の1つとして、「専門業務型裁量労働制」があります。
「専門業務型裁量労働制」について、正確にその内容を把握できていないと、思わぬところで「未払い賃金」を抱えている可能性がありますので、M&A労務デューデリジェンス(DD)において、その内容を的確に把握する必要があります。
目次
専門業務型裁量労働制とは、労働基準法上定められた19業務について、労使協定によって、みなし労働時間数等を定めた場合、実際に労働した労働時間数にかかわらず、労使協定で定めた時間を労働時間とみなす制度です。
なお、専門業務型裁量労働制についても、休憩時間、休日、時間外・休日労働、深夜労働の労働基準法上の規制は適用されます。
このため、専門業務型裁量労働制の場合でも、休憩時間を付与する必要がありますし、みなし労働時間数が法定労働時間を超える場合や法定休日に働かせる場合は、36協定の締結・届出と割増賃金の支払が必要ですし、深夜労働についても割増賃金を支払う必要があります。
M&A労務デューデリジェンス(DD)においても、上記事項はチェックされます。
専門業務型裁量労働制を導入するためには、労使協定により、下記の事項を定める必要があります。また、当該労使協定は、所轄労働基準監督署へ届出なければなりません。
このため、M&A労務デューデリジェンス(DD)においても、下記事項を定めた労使協定が締結されているかどうか、そして労使協定が所轄労働基準監督署に届出されているかどうかチェックされます。
(1)適用対象となる業務
(2)労働時間として算定される時間
(3)対象業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、当該業務に従事する労働者に具体的な指示をしないこと
(4)対象業務に従事する労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康及び福祉を確保するための措置
(5)対象業務に従事する労働者からの苦情処理に関する措置
(6)協定の有効期間
(7)(4)(5)に関し、労働者ごとに講じた措置の記録を協定の有効期間及びその期間満了後3年間保存すること
専門業務型裁量労働制を適用できるのは、労働基準法で決まっている下記の19業務に限定されます。
1.新商品もしくは新技術の研究開発または人文科学もしくは自然科学に関する研究の業務
2.情報処理システムの分析または設計の業務
3.新聞もしくは出版の事業における記事の取材もしくは編集の業務または放送番組もしくは有線ラジオ放送もしくは有線テレビジョン放送の放送番組の制作のための取材もしくは編集の業務
4.衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
5.放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサーまたはディレクターの業務
6.広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務
7.事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握またはそれを活用するための方法に関する考案もしくは助言の業務
8.建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現または助言の業務
9.ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
10.有価証券市場における相場等の動向または有価証券の価値等の分析、評価またはこれにもとづく投資に関する助言の業務
11.金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
12.学校教育法に規定する大学における教授研究の業務
13.公認会計士の業務
14.弁護士の業務
15.建築士の業務
16.不動産鑑定士の業務
17.弁理士の業務
18.税理士の業務
19.中小企業診断士の業務
このため、上記19業務以外の業務には、専門業務型裁量労働時間制は適用できませんので、注意が必要です。
M&A労務デューデリジェンス(DD)において、よくあるケースは、上記19業務に該当していない業務にもかかわらず、裁量労働扱いをしているケースです。
(1)の適用対象となる業務に従事する労働者の労働時間として算定される時間(みなし労働時間数)を労使協定に定める必要があります。
なお、行政通達によれば、「労使協定で定める時間は、1日あたりの労働時間」とされています。
1週間あたりの労働時間を協定に定めてみなすことはできないとすることが行政の見解です。
例えば、労使協定で1日の労働時間は9時間とみなすと定めた場合は、実際の労働時間が10時間であっても、9時間働いたものとみなされます。
労働基準法によると、労使協定に、「対象業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、当該業務に従事する労働者に具体的な指示をしないこと」を定める必要があります。
また、実際の運用においても、業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関して労働者に具体的な指示をしないことが求められます。
M&A労務デューデリジェンス(DD)においても、労働者に対して、具体的な指示等をしていないかどうかチェックされます。
労働基準法によると、労使協定に、「対象業務に従事する労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康及び福祉を確保するための措置」を定める必要があります。
行政通達によれば、「健康及び福祉を確保するための措置の具体的な内容については、企画業務型裁量労働制における同措置の内容と同等のものとすることが望ましい」とされています。
その内容は
1.使用者が対象労働者の労働時間の状況等の勤務状況を把握する方法として、当該対象事業場の実態に応じて適当なものを明らかにしていること。その方法としては、いかなる時間帯にどの程度の時間在社し、労務を提供しうる状態にあったかなどを明らかにしうる出退勤時刻又は入退室時刻の記録等によるものであること
2.上記により把握した勤務状況に基づいて、対象労働者の勤務状況に応じ、使用者がいかなる健康・福祉確保措置をどのように講ずるかを明確にするものであること
例えば、下記のような規定です。
対象従業員の健康と福祉を確保するために、以下の各号に定める措置を講ずるものとする。
①対象従業員の健康状態を把握するために次の措置を実施する。
a)所属長は、週間業務報告書の記録により、対象従業員の在社時間を把握する。
b)対象従業員は、2ヵ月に1度、自己の健康状態について所定の「健康状態自己診断カード」を記入の上、所属長に提出する。
c)所属長は、b)の「健康状態自己診断カード」を受領後、速やかに対象従業員毎に健康状態等についてのヒアリングを実施する。
②使用者は、前号の結果を取りまとめ、必要と認めるときには、次の措置を実施する。
a)定期健康診断とは別に、特別健康診断を実施する。
b)特別休暇を付与する。
③精神・身体両面の健康についての相談室を総務部に設置する。
労働基準法によると、労使協定に、「対象業務に従事する労働者からの苦情処理に関する措置」を定める必要があります。
そして、行政通達によれば、「苦情処理措置の具体的な内容についても、企画業務型裁量労働制における同措置の内容と同等のものとすることが望ましい」とされています。
その内容は、「苦情処理措置については、苦情の申出の窓口及び担当者、取り扱う苦情の範囲、処理の手順・方法等その具体的内容を明らかにするものであることが必要」とされています。
例えば、下記のような規定です。
対象従業員から苦情等があった場合には、以下の各号に定める手続に従い、対応するものとする。
①裁量労働相談室を次のとおり開設する。
a)場所 総務部
b)開設日時 毎週○曜日 ○時から○時
c)相談員 ○○
②取り扱う苦情の範囲は次のとおりとする。
a)裁量労働制の運用に関する全般の事項
b)対象労働者に適用している人事評価制度、及びこれに対応する賃金制度等の処遇制度全般
③相談者の秘密を厳守し、プライバシーの保護に努める。
行政通達によれば、「労使協定の有効期間については、不適切に制度が運用されることを防ぐため、3年以内が望ましい」とされています。
労働基準法によると、労使協定に、「労働者ごとに講じた措置の記録を協定の有効期間及びその期間満了後3年間保存すること」を定める必要があります。
具体的には、次の事項です。
1.対象労働者の労働時間の状況
2.対象労働者の健康・福祉確保措置の状況
3.対象労働者からの苦情処理措置の状況
M&A労務デューデリジェンス(DD)においても、上記事項について、有効期間満了後3年間保存されているかどうかチェックされます。