社労士コラム
M&A労務デューデリジェンス(DD)のチェックポイント(時間外労働のカウント方法)
2021.10.19M&A労務デューデリジェンス(DD)
M&A労務デューデリジェンス(DD)において、重要なチェック項目の1つとして、「時間外労働のカウント方法」があります。
「時間外労働のカウント方法」について、正確にその内容を把握できていないと、思わぬところで「未払い賃金」を抱えている可能性がありますので、M&A労務デューデリジェンス(DD)において、その内容を的確に把握する必要があります。
目次
労働基準法32条では、使用者は、労働者に、休憩時間を除いて1週間について40時間、1日について8時間を超えて、労働させてはならないと定めています。
これを、「法定労働時間(労働基準法で定められた時間)」といいます。
一方、各会社が会社ごとに定める労働時間のことを、「所定労働時間(各会社が定める時間)」といいます。
例えば、ある会社が、1日の所定労働時間は7時間、1週間の所定労働時間は35時間とすることです。
なお、所定労働時間を定める場合の注意点は、所定労働時間は、法定労働時間の範囲内(1週40時間、1日8時間以内)で会社が定めなければならないということです。
このため、当社の所定労働時間は、法定労働時間を超えて(1日10時間とか、1週50時間などと)定めることはできません(但し、変形労働時間制を採用する場合は除く)。
M&A労務デューデリジェンス(DD)においても、売り手企業の「所定労働時間」が「法定労働時間」の範囲内で決められているかどうかチェックします。
「法定労働時間」と「所定労働時間」の違いが現れるのは、時間外割増賃金です。
時間外労働として25%以上の割増賃金を支払わなければならないのは、「法定労働時間」を超えた労働時間です。
つまり、ある会社の「所定労働時間」が7時間の場合、実際の労働時間数が8時間であったとしても、7時間を超えた1時間部分について、割増賃金の支払は必要ありません。
例えば、時給1,000円の場合
1,000円×8時間=8,000円
となります。
この「所定労働時間(7時間)」を超え、「法定労働時間(8時間)」以下の時間のことを「法内残業時間」と呼びます。
「法内残業時間」については、割増率25%の支払は必要ないものの、通常の1時間あたりの賃金の支払は必要です。
一般的な労働時間制度の場合(変形労働時間制を取らない場合)、「日→週」の順でチェックします。
このため、まずは1日単位で時間外労働があったかどうかチェックします。
例えば、1日の所定労働時間が8時間の会社で、
月曜日に9時間労働
火曜日に7時間労働
このケースの場合、月曜日の1時間は時間外労働が発生し、火曜日に1時間の遅刻早退時間が発生しています。
M&A労務デューデリジェンス(DD)において、よくあるケースは、月曜の時間外労働時間と火曜日の遅刻早退時間を相殺してしまって、月曜日の時間外労働時間に対する割増賃金(0.25)を支払っていないケースです。
あくまでも、日々の時間外労働は1日単位で見るので、翌日以降に1時間少なく労働したとしても、月曜日の1時間の時間外労働時間は消えません。
なお、賃金の観点から見ると、時給1,000円とした場合
月曜日に多く働いた1時間分の賃金は、時間外割増賃金の対象となるため、1,250円(1,000円×1.25×1H=1,250)となります。
一方、火曜日の遅刻早退については、1時間分を控除できるため、控除される金額は1,000円です。
結果として、割増賃金250円(1,250円-1,000円=250円)が手元に残ります。
M&A労務デューデリジェンス(DD)において、この計算がされているケースは、あまり多くありません。
なお、週休二日制(土日休み)、1日の所定労働時間が8時間の会社の場合で、
日曜日 休み
月曜日 10時間労働
火曜日 12時間労働
水曜日 10時間労働
木曜日 8時間労働
金曜日 代休(8時間)
土曜日 休み
このケースの場合、月曜日に2時間、火曜日に4時間、水曜日に2時間、時間外労働しています。
しかし、金曜日に代休(8時間)を取得した場合、月曜から水曜までの8時間の時間外労働に対して割増賃金は必要でしょうか?
M&A労務デューデリジェンス(DD)において、よくあるケースは、8時間分の時間外労働時間と金曜日の代休時間(8時間)を相殺して、8時間分の時間外労働時間に対する割増賃金(0.25)を支払っていないケースです。
代休を与えたとしても、先ほどのケースと同様に、日々の時間外労働は1日単位で見るので、8時間の時間外労働時間は、代休の8時間と相殺されることにはなりません。
また、賃金についても、代休日の賃金を有給にするか、無給にするかは会社の任意ですが、仮に無給とした場合でも、時間外労働に事実は残り、手元に割増賃金分が残ります。
<月~水曜日の8時間(2時間+4時間+2時間)の時間外労働>
1,000円×1.25×8時間=10,000円
<金曜日(代休)の8時間>
1,000円×8時間=8,000円
<差額>
10,000円-8,000円=2,000円
このように割増賃金部分の2,000円が手元に残ります。
次に、1週間単位で時間外労働があったかどうかチェックします。
例えば、週休二日制(土日休み)、1日の所定労働時間が8時間の会社で、
日曜日 休み
月曜日 8時間
火曜日 8時間
水曜日 8時間
木曜日 8時間
金曜日 8時間
土曜日 8時間
日曜日 休み
月曜日 代休(8時間)
このケースにおいて、第1週目の土曜日に8時間を出勤し、翌週の月曜日に代休を取得した場合、土曜日の8時間の時間外労働に対して割増賃金は必要でしょうか?
M&A労務デューデリジェンス(DD)において、よくあるケースは、土曜日の8時間分の時間外労働時間と翌週の月曜日の代休時間(8時間)を相殺して、土曜日の8時間分の時間外労働時間に対する割増賃金(0.25)を支払っていないケースです。
週の時間外労働も、「週単位」でカウントするため、翌週に代休を与えても、時間外労働時間が帳消しにはなりません。
このため、土曜日の8時間労働は、時間外労働にカウントされます。
なお、月曜日が代休でなく、振替休日であれば時間外労働とはならないと考える方がいらっしゃると思いますが、結果は同じです。
振替休日を与えることで時間外労働をなくすためには、同一週内において振替休日を与えなければなりません。
同一週内で振替られれば、1週40時間以内となるため、割増賃金は必要ありません。
なお、週の時間外労働のカウント時には、日々の時間外労働時間数は重ねてカウントする必要はありません。