社労士コラム
M&A労務デューデリジェンス(DD)のチェックポイント(休憩時間)
2021.10.12M&A労務デューデリジェンス(DD)
休憩時間が適切に付与されていない場合、休憩時間とされている時間数が労働時間としてカウントされていないため、間違った労働時間をもとに賃金が計算されていることになり、未払い賃金が発生しているケースがあります。
このため、M&A労務デューデリジェンス(DD)において、休憩時間の実態を正確に把握する必要があります。
労働基準法では、使用者は
(1)労働時間が6時間を超える場合には45分以上
(2)労働時間が8時間を超える場合には60分以上
の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならないと定めています。
つまり、労働時間が6時間以内の場合は、休憩時間がなくても問題ありません。
また、60分以上休憩時間を与えていれば、残業などで労働時間が延長されたとしても、別途休憩時間を与える必要は、法律上ありません。
ただし、法律を上回って、健康管理上の観点から、会社が任意に60分以上の休憩時間を与えることは、問題ありません。
M&A労務デューデリジェンス(DD)において、よくあるケースは、6時間を超える労働時間を働いているパートスタッフから休憩時間はいらないから、その分早く帰りたいと言われたため、休憩時間を付与していないケースです。
また、M&A労務デューデリジェンス(DD)において、よくあるケースは、1日の所定労働時間が8時間である場合、法律上は休憩時間が45分付与されていれば問題ありませんが、残業により8時間を超えた場合には、さらに15分以上の休憩を付与しなければならないのに、付与していないケースです。
休憩時間とは、最高裁判所は、労働時間と休憩時間の区別を「労働からの解放が保障されているか否か」で判断しています。
また、行政解釈においても、休憩時間と労働時間の区別について、「休憩時間とは単に作業に従事しない手待時間を含まず労働者が権利として労働から離れることを保障されている時間の意であって、その他の拘束時間は労働時間として取り扱うこと」(昭22.9.13発基17号)としています。
このため、社員がお昼休憩中に電話番をしている場合は、労働からの解放が保障されている状態(社員が自由に利用できる時間)ではないため、休憩時間とみなされません。
また、飲食店等でお客さんが来ないために待っている時間(手待時間)も、労働から解放が保障されている状態でないため、休憩時間とはみなされません。
手待時間は、会社の指示があれば、直ちに労働に従事しなければならない時間であり、労働からの解放が保障されているとはいえないからです。
M&A労務デューデリジェンス(DD)において、上記のような時間が発見された場合は、労働時間に該当しますから、その時間に対する賃金支払の問題や、法定労働時間の超過や割増賃金の支払問題も生じますので、注意が必要です。
休憩時間の長さ(最長時間)については、労働基準法では、特に規制していません。
このため、休憩時間が長時間であること自体は、労働基準法には違反しません。
ただし、会社と社員が長時間の休憩時間について合意していたとしても、あまりに長時間の休憩時間は、拘束時間が長くなるため、社員にとって不利益となり、その休憩時間の長さによっては、公序良俗違反となり、無効となる可能性がありますので、ご注意ください。
この点についても、M&A労務デューデリジェンス(DD)においては、注意が必要です。
休憩時間は、労働時間の「途中」に与えなければなりません。
このため、始業時刻前、終業時刻後に休憩時間を与えても、労働基準法上の休憩時間を与えたことにはなりません。
なお、労働時間の途中であれば、休憩を与える位置(時間帯)については、労働基準法上の規制はありません。
休憩時間の分割付与についても、労働基準法上、制限する規定はありません。
このため、分割付与も可能です。
しかし、休憩として実質を満たさないほどの短い時間の分割付与は、そもそも休憩時間を与えたことにはならないため、公序良俗違反とされ、無効となる可能性があります。
この点も、M&A労務デューデリジェンス(DD)において、あまりに短い休憩時間が分割で付与されている場合は、注意が必要です。
休憩時間は、一斉に与えなければなりません。
つまり、休憩時間は、みんな同じ時間帯に与えなければならないということです。
ただし、下記の一斉休憩が困難な一定のサービス業については、一斉に付与しなくても、構いません。
(1)道路・鉄道・軌道・索道・船舶または航空機による旅客または貨物の運送の事業
(2)物品の販売・配給・保管若しくは賃貸または理容の事業
(3)金融・保険・媒介・周旋・集金・案内または広告の事業
(4)映画の製作または映写・演劇その他興行の事業
(5)郵便・信書便または電気通信の事業
(6)病院等保健衛生の事業
(7)旅館・料理店・飲食店・接客業または娯楽業の事業
(8)官公署の事業
また、過半数労働組合、それがない場合は、労働者の過半数代表者との労使協定(労働基準監督署への届出不要)を締結すれば、一斉に休憩を付与する必要はなく、交代で付与することが可能です。
M&A労務デューデリジェンス(DD)において、よくあるケースは、一斉休憩に関する労使協定を締結していないのに、各人がバラバラで休憩を取得しているケースです。
労働基準法に違反して、休憩を与えなかった場合や、休憩を与えても、労働基準法に違反して一斉に与えず、または自由に利用させなかった場合は、使用者は、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。