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社労士コラム

IPO労務監査における労働法の基礎知識②(36協定届)

2024.02.20IPO労務監査

IPO労務監査においては、多くのケースで36協定違反が確認されます。

36協定違反が確認された場合、将来にわたって36協定違反が発生しないように、具体的な対策をとる必要があります。

その際には、労働法に関する基礎知識がないと、具体的な対策がとれませんので、IPOを目指す企業の担当者様にとって、最低限必要な労働法の基礎知識をお伝えしたいと思います。

①36協定とは?

法定労働時間は、1日8時間、1週40時間です。

このため、会社は法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超えて社員を働かせてはいけません。

また、労働基準法35条では、1週1日ないし4週4日の法定休日の付与が義務付けられています。

このため、会社は法定休日に社員を働かせてはいけません。

しかし、これでは業務に支障が出ますし、実際に多くの会社では法定労働時間を超えて、あるいは法定休日に労働させています。

これは、法的には問題ないのでしょうか?

実は労働基準法では、一定の手続きを踏めば、この法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超えて、あるいは法定休日に働かせることができると記載されています。

その一定の手続きとは、労働基準監督署へ「36(サブロク)協定」を届出することです。

「36協定」とは、会社と社員の過半数代表者との間で結ばれる「時間外・休日労働に関する協定書」のことです。

労働基準法36条に規定されていることから、この名称がついています。

つまり、会社が所定労働時間を決める際は、法定労働時間(1日8時間、1週40時間)以内で決めなければなりませんが、実際の労働時間が法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超える可能性がある場合は、36協定を労働基準監督署に届出しておけば、法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超えて、あるいは法定休日に働かせることができます。

なお、36協定とは、「労働基準法36条2項で定める内容」を定めた労使当事者間の「協定書」です。

そして、この労使協定書を労働基準監督署へ届出る際には、様式第9号(9号の2、9号の3)を添付して、届出する必要があります。

これについては特例が認められており、様式9号に従業員代表の押印等を加えることにより、これを36協定の協定書とすることは差し支えなく、これだけを届出ることが認められています。この場合は、当該協定書の写しを当該事業場に保存しておく必要があります(昭53.11.20基発642号)。

IPO労務監査においても、労使間で適切に36協定が締結されているか、そして、36協定が労働基準監督署へ届出されているかどうかチェックされます。

②残業させるにはどうすればいいの?

厳密にいうと、「36協定」を提出するだけでは、法定労働時間を超えて、あるいは法定休日に労働させることはできません。

社員に残業をさせるためには、下記の3つの要件が必要です。

(1)36協定を結ぶこと

(2)就業規則、雇用契約書に「残業あるいは法定休日に労働させることができる」旨の記載があること

(3)残業時間・法定休日労働時間については、割増賃金を支払うこと

です。

(1)については、上記のとおり、当該事業場の過半数代表者との間で、書面による協定(36協定)をして、労働基準監督署へ届け出なければなりません。

(2)については、社員に残業あるいは法定休日に労働をさせるためには、それを法的に義務付ける根拠が必要です。

つまり、就業規則や雇用契約書に「会社は業務の都合により時間外・休日労働を命じることがある」などの記載が必要となります。

IPO労務監査においても、就業規則や雇用契約書等で会社に残業の命令権が付与されているかどうかチェックされます。

36協定を結ばずに、残業あるいは法定休日労働を行わせた場合は、労働基準法違反により6ヵ月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられることになります。

(3)については、労働基準法で定められた計算方法により、割増賃金を支払うことが必要です。

割増率は下記の通りとなります。

・法定時間外労働:月60時間未満25%

・法定時間外労働:月60時間超50%

・法定休日労働:35%

・深夜(22:00~5:00)労働:25%

IPO労務監査の前に、一度、自社がこの3つの要件を満たしているのか、チェックしてみてください。

③残業時間の上限は?

では、「36協定」を結んでおけば、無制限に残業させてもいいのでしょうか?

答えは、ダメです。

労働基準法により、時間外労働の限度時間の上限が定められています。

その時間外労働の限度時間の上限は、一般的な会社の場合、1ヵ月45時間、1年360時間です(1年単位の変形労働時間制の場合、1ヵ月42時間、1年320時間 )。

また、労働基準法により、時間外労働と法定休日労働の限度時間の上限も定められています。

(1)月に100時間未満(時間外労働+法定休日労働)

(2)2~6ヵ月間を平均して月80時間以下(時間外労働+法定休日労働)

このため、36協定届を締結して労働基準監督署に届出しても、この限度時間を超える残業をさせることはできません。

IPO労務監査においても、下記記載の「特別条項付きの36協定」を締結することなしに、月45時間、年360時間を超えて残業させているケースがあるため、注意が必要です。

なお、業務の特性によっては、この限度時間を適用することがなじまないケースがあるため、下記の事業・業務については、限度時間の上限は適用を猶予又は適用しないことになっています。

・適用猶予(2024年3月31まで)

(1)工作物の建設等の事業

(2)自動車の運転の業務

(3)医師

・適用除外

(1)新技術、新商品等の研究開発の業務

上記適用猶予・適用除外の事業・業務であっても、適用が除外されるのは限度時間のみで、36協定届の締結・届出は必要なので、注意が必要です。

④上限時間を超えて残業できないの?

36協定を結んでも、時間外労働の上限時間は、1ヵ月45時間、1年360時間とお伝えしました。

しかし、実際の業務では急な受注や納期の変更などによって、実際の時間外労働時間が1ヵ月45時間、1年360時間を超えてしまうことがあります。

例えば、時間外労働の限度時間の上限が、1年360時間ということは、月平均30時間(360時間÷12ヵ月)となるため、毎月40時間残業をした場合(40時間×12ヵ月=480時間)、年360時間は大きく超えてしまいます。

この場合は、どうしたらいいのでしょうか?

実は「特別条項付き36協定」を締結することによって、1カ月45時間、1年360時間を超えて時間外労働をすることが可能となります。

「特別条項付き36協定」とは、36協定中に、特別条項を定めることで、労使が定める上限時間まで、時間外労働をすることができます。

この労使(特別条項)で定める上限時間は、労働基準法で定められており、

(1)月100時間未満(時間外労働+法定休日労働)

(2)年720時間以内(時間外労働)

(3)月45時間を超える月数は、6ヵ月以内(時間外労働)

でなければなりません。

ただし、労使が上記範囲内で上限時間を定めることができますが、あまりに長い上限時間は、社員の健康問題を引き起こす可能性が高くなるので、注意が必要です。

残業が見込まれる会社は、是非、特別条項付き36協定の活用してみてください。

なお、IPO労務監査においても、よく指摘される事項ですが、36協定で締結した上限時間を超えて労働させることはできませんので、ご注意ください。

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