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社労士コラム

IPO労務監査のチェックリスト(2023年4月:60時間超時間外労働の割増賃金引上げ)

2023.02.10IPO労務監査

IPO労務監査において、重要なチェック項目の1つとして、「2023年(令和5年)4月適用の月60時間超の時間外労働に関する割増賃金の引き上げ」があります。

「2023年(令和5年)4月適用の月60時間超の時間外労働に関する割増賃金の引き上げ」について、正確にその内容を把握できていないと、思わぬところで「法的なリスク」を抱えている可能性がありますので、IPO労務監査において、その内容を的確に把握する必要があります。

まず、この適用の経緯ですが、2010年4月の労働基準法改正により、月60時間超の時間外労働については、50%の割増率となりました。

しかしながら、中小企業の事業に与える影響を鑑み、大企業のみ引き上げが適用され、中小企業は猶予措置として、25%の割増率のままとなっていました。

その後、2019年4月施行の働き方改革関連法により、中小企業の猶予措置の終了が決定され、2023年4月から、月60時間を超える時間外労働に対しては、大企業同様に50%の割増率が適用されることになりました。

そこで、今回は、2023年(令和5年)4月適用の月60時間超の時間外労働に関する割増賃金の引き上げについて、解説したいと思います。

まず、令和5年4月1日適用の月60時間超の時間外労働に関する割増賃金の引き上げのポイントは、下記の2つです。

①月60時間を超える法定時間外労働に対して、50%以上の割増率で計算した割増賃金を支払わなければならない

②引上げ分(50%-25%=25%)の割増賃金の代わりに有給の休暇を付与する制度(代替休暇)を設けることができる

なお、①及び②について設ける場合、就業規則の変更が必要となります。

このため、IPO労務監査においても、就業規則の変更がされているかどうかチェックされます。

①月60時間超の時間外労働割増賃金の具体的な計算方法は?

(1)月60時間のカウント方法

それぞれの企業が定める賃金計算期間の法定時間外労働時間を集計し、その月において60時間を超えた法定時間外労働時間をカウントします。

つまり、通常は賃金計算期間の初日から法定時間外労働時間の時間数をカウントし、60時間を超えた分について、50%の割増率で計算し、支払う必要があります。

(2)法定時間外労働に含まれる時間

月60時間のカウントに含まれるのは、法定時間外労働時間です。

原則的な労働時間制(変形労働時間を導入していない)の場合は、1日8時間、1週40時間を超えた時間が法定時間外労働時間となります。

週1日の法定休日の労働(割増率35%)は、月60時間のカウントには含まれませんが、法定休日労働以外の休日(所定休日)の労働時間は、月60時間のカウントに含まれますので、注意が必要です。

IPO労務監査においても、法定時間外労働時間が上記の通りにカウントされ、正しく割増賃金が支払われているかどうかチャックされます。

(3)割増率は50%以上

(1)(2)により集計された法定時間外労働の時間で月60時間を超える部分の割増率は50%以上で計算する必要があります。

例えば、時給1,000円の社員が月80時間の法定時間外労働をした場合、下記の通りとなります。

<適用前>

1,000円×1.25×80時間=100,000円

<適用後>

1,000円×1.25×60時間+1,000円×1.5×20時間=105,000円

令和5年4月1日以降のIPO労務監査において、上記のような未払い賃金(上記であれば差額5,000円)があった場合、未払い賃金の精算が求められる可能性が高いため、注意が必要です。

なお、月60時間超の法定時間外労働が深夜時間帯(22:00~5:00)に行われた場合の割増率は、下記の通りとなります。

時間外割増率50%+深夜割増率25%=75%

②代替休暇制度とは?

代替休暇制度とは、引上げ分の割増賃金の代わりに有給休暇を付与する制度です。

この制度を導入するには、会社と過半数代表者との間で労使協定を締結する必要があります。

労使協定の協定事項(労基則19条の2)は下記のとおりです。

・代替休暇の時間数の算定方法

・代替休暇の単位(1日又は半日)

・代替休暇を付与できる期間(2ヵ月以内)

このほか、行政通達において、代替休暇取得日の決定方法及び割増賃金の支払日を協定することが考えられるとしています。

このため、IPO労務監査においても、代替休暇制度を導入している会社の場合は、労使協定が締結されているかどうかチェックされます。

(1)どの部分が代替休暇の対象となるか?

代替休暇の対象となるのは、60時間を超えた割増率50%のうち25%となる部分です。

つまり、法改正により、25%上乗せになった部分のみが代替休暇の対象となります。

代替休暇が取得されると、上乗せ部分(25%)について割増賃金を支払う義務がなくなります。

例えば、月80時間の法定時間外労働があった場合、代替休暇制度を導入しない場合、60時間超80時間までの部分については、50%の割増賃金を支払わなければなりませんが、代替休暇制度を導入した場合、25%の割増賃金の支払と5時間(20時間×25%:下記参照)の代替休暇を付与すれば問題ありません。

(2)代替休暇の算定方法

代替休暇の算定方法は下記のとおりです。

代替休暇の時間数=(月の法定時間外労働時間-60時間)×25%

例えば、月80時間の法定時間外労働があった場合、代替休暇の時間数は下記のとおりです。

代替休暇の時間数=(80時間-60時間)×25%=5時間

(3)代替休暇の付与は1日又は半日単位で

代替休暇付与の注意点は、休息の機会を確保するとの観点から、1日又は半日の単位で与えなければなりません。

ここにおける半日の考え方ですが、厳密に半日という場合、1日の所定労働時間の半分(例えば、1日の所定労働時間が8時間の場合、4時間)となりますが、労使協定に定めることにより、厳密に2分の1とせず、午前取得3時間、午後取得5時間のような形とすることも可能です。

端数時間が生じた場合については、1日又は半日の単位の取得で余ってしまった端数時間については、「割増賃金として支払う方法」と「他の有給休暇と合わせて取得する方法」のいずれか選択できます。

ここでいう他の有給休暇とは、企業独自の有給休暇(特別休暇など)や時間単位の年次有給休暇が考えられますが、後者の場合、取得には社員の請求が前提となります。

このように様々な取得パターンがありますが、企業毎にそのパターンを労使協定で定めておく必要があります。

(4)代替休暇の取得期限は?

代替休暇の目的は、長い法定時間労働を行った社員の休息の機会を確保することです。

このため、代替休暇を取得させる期限は、法定時間外労働が月60時間を超えた月の法定時間外労働の締切日の翌日から2ヵ月以内に与える必要があります。

なお、この期間内に取得できなかったとしても、会社に割増賃金の支払義務がなくなるわけではありませんので、代替休暇として与える予定だった割増賃金分を支払う必要があります。

つまり、取得できなければ、最終的には割増賃金として支払うことになるため、そもそも休暇取得が難しい、長時間労働の傾向が強い会社では、代替休暇制度の導入は現実的ではないと思われます。

IPO労務監査においても、代替休暇が確実に取得できているかどうか、取得できていなければ、割増賃金を支払っているかどうかチェックされます。

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