社労士コラム
IPO労務監査のチェックリスト(年5日有給時季指定義務)
2021.11.26IPO労務監査
IPO労務監査において、重要なチェック項目の1つとして、「年5日有給時季指定義務」があります。
「年5日有給時季指定義務」について、正確にその内容を把握できていないと、思わぬところで「法的なリスク」を抱えている可能性がありますので、IPO労務監査において、その内容を的確に把握する必要があります。
年次有給休暇の時季指定義務とは
(1)年10日以上の年次有給休暇が付与される社員に対して
(2)年次有給休暇の日数のうち年5日については
(3)会社が時季を指定して取得させることが
義務付けられました。
(1)の対象者には、管理監督者や有期契約社員(年10日以上付与される者に限る)も含まれます。
(2)については、年次有給休暇を付与した日から1年以内に5日について、取得させなければなりません。
時季指定の方法については、
(1)会社による時季指定
(2)社員自らの請求・取得
(3)計画年休
のいずれかの方法で年5日以上の年次有給休暇を取得させれば、問題ありません。
なお、(1)については、社員の意見を聴取した上で、社員の意見を尊重し、会社が時季を指定することが望ましいとされています。
また、いつの付与分から適用になるのかというと、2019年4月1日以降に最初に年10日以上の年次有給休暇を付与する日から、年5日を取得させる必要があります。
2019年4月より前に年次有給休暇を付与している場合は、会社に時季指定義務が発生しないため、年5日取得させなくても、問題ありません。
年次有給休暇を法定の付与日より前倒しで付与している場合の取扱いについては、以下に整理します。
<ケース①>
法定の付与日(入社日から6ヵ月後)より前に10日以上の年次有給休暇を付与する場合
例えば、入社日(2019/4/1)と同時に10日以上の年次有給休暇を付与した場合は、付与日(2019/4/1)から1年以内に5日の年次有給休暇を取得させる必要があります(2019/4/1~2020/3/31までの1年間に5日年次有給休暇を取得させなければなりません)。
つまり、法定の付与日より前に10日以上の年次有給休暇を付与した場合には、会社は、その日から1年以内に5日の年次有給休暇を取得させなければなりませんので、ご注意ください。
<ケース②>
入社した年と、翌年で年次有給休暇の付与日が異なるため、5日の指定義務がかかる1年間の期間に重複が生じる場合(全社的に起算日を合わせるために入社2年目以降の社員への付与日を統一するなど)
例えば、
入社日(2019/4/1)から
①半年後(2019/10/1)に10日の年次有給休暇を付与し、
全社的に起算日を統一するため、
②翌年度は(2020/4/1)に(11日)付与する場合は、
原則として
①2019/10/1~2020/9/30の期間内に5日
②2020/4/1~2021/3/31の期間内に5日
の年次有給休暇を取得させる必要があります。
しかし、それぞれの期間で年5日を取得させる必要があり、管理が煩雑になるため、次の方法による比例按分も認められています。
2019/10/1(1年目の初日)~2021/3/31(2年目の末日)までの期間(18ヵ月)に、7.5日(18ヵ月÷12×5日)以上の年次有給休暇を取得させることも可能です。
つまり、期間に重複が生じた場合は、重複が生じるそれぞれの期間の長さに応じた日数(比例按分した日数)をこの期間に取得させれば問題ありません。
<ケース③>
10日のうち一部を法定の付与日よる前倒しで付与した場合
例えば、
①入社日(2019/4/1)と同時に5日の年次有給休暇を付与し、
②2019/7/1に更に5日の年次有給休暇を付与する場合、
付与された年次有給休暇の
合計で10日に達した2019/7/1から1年以内(2019/7/1~2020/6/30)に年次有給休暇を5日取得させる必要があります。
また、入社時に一部前倒しで付与された年次有給休暇(5日)を2019/7/1より前(2019/4/1~2019/6/30)に社員が取得していた場合は、その日数分を5日から控除することができます。
例えば、2019/4/1~2019/6/30までに社員が年次有給休暇を2日取得していた場合は、2019/7/1~2020/6/30までの間に残りの3日(5日-2日)取得させれば問題ありません。
年次有給休暇の時季指定義務に関するQ&Aを以下に整理します。
<Q1>
会社が年次有給休暇の時季を指定する際に、半日単位有給とすることは可能でしょうか?
また、その日数を会社が時季を指定する年5日の年次有給休暇から控除することはできますか?
<A1>
時季指定にあたって、社員の意見を聴いた際に、半日単位での年次有給休暇の取得を希望した場合、半日(0.5日)単位で取得することは可能です。
また、社員が半日単位の年次有給休暇を取得した場合には、取得1回につき0.5日として、会社が時季を指定すべき年5日の年次有給休暇から控除することができます。
<Q2>
会社が年次有給休暇の時季を指定する際に、時間単位有給とすることは可能でしょうか?
<A2>
時間単位の年次有給休暇については、会社による時季指定の対象とはならず、社員が自ら取得した場合にも、その時間分を5日から控除することはできません。
<Q3>
アルバイトなど、所定労働日数が少ない社員であって、1年以内に付与される年次有給休暇の日数が10日未満の者について、前年度から繰り越した日数を含めると10日以上となる場合、年5日取得させる義務の対象となりますか?
<A3>
対象者とはなりません。
前年度から繰り越した年次有給休暇の日数は含まず、当年度に付与される法定の年次有給休暇の日数が10日以上である社員が義務の対象となります。
<Q4>
前年度からの繰越し分の年次有給休暇を取得した場合、その日数分を会社が指定すべき年5日の年次有給休暇から控除することができますか?
<A4>
社員が実際に取得した年次有給休暇が前年度からの繰越し分の年次有給休暇であるか、当年度の年次有給休暇であるかについては問わないものであり、控除できます。
<Q5>
年5日の取得ができなかった社員が1人でもいたら、罰則が科せられるのでしょうか?
<A5>
法違反(1人あたり30万円以下の罰金)として取り扱うこととなりますが、労働基準監督署の監督指導において、法違反が認められた場合は、原則としてその是正に向けて丁寧に指導し、改善を図っていくようです。
<Q6>
会社が年次有給休暇の時季指定をするだけでは足りず、実際に取得させることまで必要でしょうか?
<A6>
会社が5日分の年次有給休暇の時季指定をしただけでは足りず、実際に基準日から1年以内に年次有給休暇を5日取得していなければ、法違反として取り扱うようです。
<Q7>
年次有給休暇の取得を社員本人が希望せず、会社が時季指定を行っても休むことを拒否した場合、会社側の責任はどこまで問われるのでしょうか?
<A7>
会社が時季指定をしたにもかかわらず、社員がこれに従わず、自らの判断で出勤し、会社がその労働を受領した場合には、年次有給休暇を取得したことにならないため、法違反を問われることとなります。
ただし、労働基準監督署の監督指導において、法違反が認められた場合、原則としてその是正に向けて丁寧に指導し、改善を図っていくようです。
<Q8>
年度の途中に育児休業から復帰した社員についても、年5日の年次有給休暇を確実に取得させる必要がありますか?
<A8>
年度の途中に育児休業から復帰した社員についても、年5日の年次有給休暇を確実に取得させる必要があります。
ただし、残りの期間における労働日が、使用者が時季指定すべき年次有給休暇の残日数より少なく、5日の年次有給休暇を取得させることが不可能な場合は、この限りではありません。