社労士コラム
IPO労務監査のチェックリスト(就業規則)
2021.10.22IPO労務監査
IPO労務監査において、重要なチェック項目の1つとして、「就業規則の作成」があります。
「就業規則の作成」について、正確にその内容を把握できていないと、思わぬところで「法的なリスク」を抱えている可能性がありますので、IPO労務監査において、その内容を的確に把握する必要があります。
目次
常時使用する労働者数が10人以上の場合は、就業規則を作成、届出しなければなりません。
労働基準法では、「常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、所轄労働基準監督署へ届け出なければならない」と定めています。
ここでいう労働者の範囲には、正社員だけでなく、契約社員、アルバイト、パートタイマーなど会社と雇用契約を締結している者全てを含みます(受け入れている派遣労働者は除く)。
例えば、正社員が3名、契約社員が4名、アルバイトが3名でも、合計で10名ですので、就業規則の作成及び届出が必要です。
また、10人かどうかは、会社全体でみるものではなく、事業場単位でカウントします。
例えば、A事業場には8名の正社員、B事業場には3名の正社員がいる会社では、事業場ごとに見た場合、いずれも常時10人以上とはいえないので、就業規則の作成及び届出が義務付けられていないことになります。
IPO労務監査において、よくあるケースは、IPO準備会社で各事業場ごとの労働者数が10名以上(例えば、本社50名、大阪支店15名、福岡支店10名)いるにもかかわらず、本社の就業規則だけを労働基準監督署へ届出をしているケースです。
また、10人以上でなければ、法律上、就業規則を作成する義務はありませんが、その場合には、会社と労働者との間の労働条件が曖昧または具体的でないため、法的な紛争が生じた場合、会社にとって大きなリスクとなります。
このため、10人未満であっても、就業規則を作成しておくことをお勧めします。
就業規則に記載する事項には、下記の3つがあります。
(1)絶対的必要記載事項
(2)相対的必要記載事項
(3)任意的記載事項
これらのうち(1)と(2)については、就業規則に記載することが義務付けられています。
「絶対的必要記載事項」とは、必ず就業規則に記載しなければならない下記の事項です。
1. 始業・終業時刻、休憩、休日、休暇、交代制の場合の就業時転換に関する事項
2. 賃金の決定、計算および支払い方法、賃金の締切および支払いの時期ならびに昇給に関する事項
3. 退職に関する事項(解雇事由を含む)
IPO労務監査においても、この記載事項はマストなので、必ずチェックされます。
「相対的必要記載事項」とは、制度として採用する場合は、必ず就業規則に記載しなければならない下記の事項です。
1. 退職手当に関する事項
2. 臨時の賃金等・最低賃金額に関する事項
3. 労働者に負担させる食費、作業用品、その他に関する事項
4. 安全衛生に関する事項
5. 職業訓練に関する事項
6. 災害補償および業務外の傷病扶助に関する事項
7. 表彰・制裁に関する事項
8. 事業場の労働者の全てに適用される定めに関する事項
IPO労務監査においても、IPO準備会社において、上記事項の定めがある場合は、チェックされます。
「任意的記載事項」とは、「絶対的必要記載事項」、「相対的必要記載事項」以外の事項で、就業規則に記載するかどうかが会社の自由に委ねられている事項のことをいいます。
同意は必要ありませんが、意見を聴く必要があります。
IPO労務監査においても、就業規則作成時に、過半数代表者の意見を聴取したかどうかはチェックされます。
労働基準法では、「使用者は、就業規則を作成した後、当該事業場に過半数労働組合がある場合にはその労働組合、過半数労働組合がない場合は過半数代表者の意見を聴取しなければならない」と定めています。
「過半数」とは、当該事業場で働く全ての労働者数の過半数とされていますので、正社員だけではなく、契約社員、アルバイト、パートタイマーも労働者に含まれます。
なお、過半数労働組合がない会社は、過半数代表者が、労働者の意見を集約します。
IPO労務監査においても、当該事業場の過半数代表者が、本当に当該事業場の労働者の過半数の信任を得ているかどうかチェックされます。
この過半数代表者には、下記の要件が必要です。
(1)労働基準法で定める監督もしくは管理の地位にある者でないこと
(2)就業規則の作成の際に使用者から意見を聴取される者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続きにより選出された者であること
このように過半数代表者の選出には、民主的な方法で選出される必要がありますが、IPO労務監査において、よくあるケースは、IPO準備会社において、この過半数代表者の選出手続きがしっかり行われていないケースです。
適切に選出されたとはいえない過半数代表者が記載した意見は無効であり、就業規則の作成における過半数代表者からの意見聴取をしていない扱いとなり、罰則の対象となりますので、ご注意ください。
周知する必要があります。
労働基準法では、「使用者は、就業規則を常時各作業場の見やすい場所に掲示し、または備付け、あるいは就業規則を交付することのいずれかの方法によって行わなければならない」と定めています。
具体的には、
(1)常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること
(2)書面を労働者へ交付すること
(3)磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること
のいずれかとしています。
判例でも、周知手続きを経て、はじめて就業規則の効力は発生すると判示しているものがあります。
このため、IPO労務監査において、IPO準備会社において、就業規則が周知されているかどうかチェックします。
周知されていない場合は、就業規則自体が無効になってしまう可能性がありますので、注意が必要です。