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社労士コラム

IPO労務監査のチェックリスト(労働条件の明示)

2024.02.9IPO労務監査

IPO労務監査において、重要なチェックポイントの1つとして、「労働条件の明示」があります。

「労働条件の明示」について、正確にその内容を把握できていないと、思わぬところで「法的なリスク」を抱えている可能性がありますので、IPO労務監査において、その内容を的確に把握する必要があります。

①労働条件の明示事項とは?

労働基準法第15条1項及び労働基準法施行規則第5条は、使用者が労働契約締結の際に、下記の事項を労働者に明示することを義務付けています。

(1)絶対的明示事項とは?

(1)労働契約の期間に関する事項

(2)有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項(通算契約期間又は有期労働契約の更新回数に上限の定めがある場合には当該上限を含む。)

(3)就業の場所及び従事すべき業務に関する事項(就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を含む。)

(4)始業および終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇ならびに労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項

(5)賃金((7)および(8)の賃金を除く)の決定、計算方法・支払いの方法、賃金の締切りおよび支払いの時期ならびに昇給に関する事項

(6)退職に関する事項(解雇の事由を含む)

なお、令和6年4月1日の「労働基準法施行規則」の改正により、上記(3)の「就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲」も書面により、明示することが必要となりました。

上記(1)~(6)の労働条件については、社員に対して、必ず明示しなければならない事項であるため、IPO労務監査においても、上記労働条件が社員に対して、明示されているかどうかチェックされます。

また、使用者が下記の定めをする場合にも、労働者に明示することが必要となります。

(2)相対的明示事項とは?

(7)退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算および支払いの方法ならびに退職手当の支払いの時期に関する事項

(8)臨時に支払われる賃金(退職手当は除く)、賞与およびそれらに準ずる賃金ならびに最低賃金に関する事項

(9)労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項

(10)安全および衛生に関する事項

(11)職業訓練に関する事項

(12)災害補償および業務外の傷病扶助に関する事項

(13)表彰および制裁に関する事項

(14)休職に関する事項

このため、IPO準備会社において、上記(7)~(14)の労働条件について定めがある場合は、IPO労務監査において、上記労働条件が社員に対して、明示されているかどうかチェックされます。

なお、前記(1)~(6)までに掲げる事項(昇給に関する事項は除く)については、書面交付による明示が必要とされていますが、労働者が希望した場合には、電子メール等の送信により、労働条件を明示することも認められています。

②有期契約労働者に対する明示事項とは?

有期契約労働者の場合、平成25年4月1日の「労働基準法施行規則」の改正により、使用者は有期労働契約の締結時に、上記(2)の「更新基準」を書面により、明示することが必要となりました。

通達によると、書面の交付により明示しなければならないこととされる「更新の基準」の内容は、有期労働契約を締結する労働者が、契約期間満了後の自らの雇用継続の可能性について一定程度予見することが可能となるものであることを要するものであることとしています。

(1)更新の有無とは?

具体的には、

「更新の有無」として、

(a)自動的に更新する

(b)更新する場合があり得る

(c)契約の更新はしない

等を、

(2)契約更新の判断基準とは?

「契約更新の判断基準」として、

(a)契約期間満了時の業務量により判断する

(b)労働者の勤務成績、態度により判断する

(c)労働者の能力により判断する

(d)会社の経営状況により判断する

(e)従事している業務の進捗状況により判断する

等を明示することが考えられるものであるとしています。

なお、令和6年4月1日の「労働基準法施行規則」の改正により、使用者は有期労働契約の締結の際、上記(2)の「通算契約期間又は有期労働契約の更新回数に上限の定めがある場合には当該上限」を書面により、明示することが必要となりました。

このため、IPO準備会社に有期契約社員が在籍している場合は、「更新の有無」、「契約更新の判断基準」及び「通算契約期間又は有期労働契約の更新回数に上限の定めがある場合には当該上限」の労働条件が有期契約社員に対して、明示されているかどうかチェックされます。

③短時間・有期契約労働者の明示事項とは?

短時間・有期契約労働者の場合、令和2年4月1日の「短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下、「パート・有期法」という)」の施行により、「昇給の有無」、「賞与の有無」、「退職手当の有無」、「短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口」についても、書面により明示しなければなりません。

なお、上記と同様に、労働者が希望した場合には、電子メール等の送信により、労働条件を明示することも認められています。

通達によると、

「昇給」については、一つの契約期間の中での賃金の増額を指すものであり、有期労働契約の契約更新時の賃金改定は、「昇給」には当たらないとしています。

「退職手当」については、労使間において、労働契約等によってあらかじめ支給条件が明確になっており、退職により支給されるものであればよく、その支給形態が退職一時金であるか、退職年金であるかを問わないとしています。

「賞与」については、定期又は臨時に支給されるものであって、その支給額があらかじめ確定されていないものをいうとしています。

「短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口」については、事業主が労働者からの苦情を含めた相談を受け付ける窓口のことをいい、「相談窓口」の明示の具体例としては、担当者の氏名、担当者の役職又は担当部署等が考えられるとしています。

なお、「昇給」及び「賞与」が業績等に基づき実施されない又は支給されない可能性がある場合には、制度としては「有」と明示しつつ、あわせて、「昇給」及び「賞与」が業績等に基づき実施されない又は支給されない可能性がある旨や、「退職手当」が勤続年数等に基づき支給されない可能性がある旨について明示されるべきものであるとしています。

また、「昇給」に係る文書の交付等に当たって、「賃金改定(増額):有」等「昇給」の有無が明らかである表示をしている場合には、法律で定める義務の履行といえますが、「賃金改定:有」と表示し、「賃金改定」が「昇給」のみであるか明らかでない場合等「昇給」の有無が明らかでない表示にとどまる場合には、義務の履行とはいえないとしています。

このため、IPO準備会社に短時間・有期契約労働者が在籍している場合は、「昇給の有無」、「賞与の有無」、「退職手当の有無」、「短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口」の労働条件が短時間・有期契約社員に対して、明示されているかどうかチェックされます。

④無期転換を申し込むことができる旨を明示する義務とは?

令和6年4月1日の「労働基準法施行規則」の改正により、雇用期間が5年を超えて無期転換申込権が発生する有期契約労働者に対しては、労働契約書又は労働条件通知書において、「無期転換を申し込むことができる旨」を明示しなければなりません。

このため、IPO準備会社に無期転換を申し込むことができる有期契約労働者が在籍している場合は、書面にて「無期転換を申し込むことができる旨」が明示されているかどうかチェックされます。

⑤雇入れ時の待遇についての説明義務とは?

パート・有期法14条第1項によると、事業主は、短時間・有期契約労働者を雇入れたときは、速やかに、下記事項に対し講ずべき措置について、説明しなければならないとしています。

(1)不合理な待遇差の禁止

(2)差別的な取扱いの禁止

(3)賃金決定時の努力義務

(4)教育訓練の実施

(5)福利厚生施設(食堂・休憩室・更衣室)の利用

(6)通常の労働者への転換推進

このため、IPO準備会社に短時間・有期契約労働者が在籍している場合は、上記措置が短時間・有期契約労働者に対して、説明されているかどうかチェックされます。

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