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社労士コラム

IPO労務監査のチェックリスト(解雇)

2021.09.27IPO労務監査

IPO労務監査において、重要なチェック項目の1つとして、「解雇」があります。

「解雇」については、その実態が把握できていないと、思わぬところで「未払い賃金」が発生してしまうケースがありますので、IPO労務監査においてその内容を的確に把握する必要があります。

①解雇とは?

そもそも、「解雇」とは、法律上どのようなケースを言うのでしょうか?

解雇とは、「会社が一方的に労働契約を解除する」ことです。

つまり、会社が社員に対して、「辞めてください」と一方的に通告することをいいます。

IPO労務監査においても、IPO準備会社において、過去に解雇があったケースは、相当数あります。

また、解雇には、下記の3種類があります。

(1)普通解雇

(2)整理解雇

(3)懲戒解雇

(1)普通解雇とは?

「普通解雇」とは、社員がケガや病気(私傷病)で働けないなど、社員側に責任がある事由によって労働契約が債務不履行状態になった社員に対して、会社が一方的に労働契約を解除することです。

(2)整理解雇とは?

「整理解雇」とは、社員側には何ら責任がないのに、会社の経営上の理由(会社業績悪化に伴う人員削減など)から、会社が一方的に労働契約を解除することです。

(3)懲戒解雇とは?

「懲戒解雇」とは、多額の横領など、重大な企業秩序違反行為があった社員(社員側に責任)に対して、会社が一方的に罰として労働契約を解消することです。

この3つの解雇の違いによって、裁判で争われた場合の、解雇のハードルが変わってきます。

「普通解雇」の場合、労働者保護の観点から判例で「解雇権濫用法理」が形成された結果、普通解雇事由がある場合でも会社は常に解雇できるわけではなく、「社会通念上の相当性を欠く場合」には解雇権を濫用したものとして解雇は無効となります。

「整理解雇」の場合も同様に、会社による整理解雇が解雇権の濫用でないかが判断されますが、普通解雇よりも厳しい「整理解雇法理」により判断されます。

また、「懲戒解雇」についても、懲戒処分としての性質を有するため、解雇権濫用法理に照らした解雇の有効性に加えて、「懲戒処分としての有効性」も満たすことが必要となり、普通解雇に比べて非常に厳しい要件が課されています。

このように同じ解雇であっても、それぞれで解雇の有効性の判断基準が異なります。

このため、IPO労務監査においても、解雇の種類によって、当該解雇の相当性についてチェックします。

②労働基準法上の解雇手続きとは?

解雇する場合は、労働基準法上、解雇予告の手続きが必要となります。

具体的には、使用者は労働者を解雇する場合、一部の例外に該当する場合を除き、30日前の予告あるいは30日分以上の平均賃金の支払いが必要です。

IPO労務監査においても、IPO準備会社において過去に解雇がある場合は、この解雇予告手当を支払っているかどうかはチェックされます。

IPO労務監査において、よくあるケースは、解雇しているけれども、解雇予告又は解雇予告手当を支払っていないケースがあります。

また、解雇予告手当は、解雇日までに支払う必要があります。

もちろん解雇日までの支払ですので、解雇通告(解雇予告をした)日に同時に支払っても問題ありません。

ただし、解雇予告なしの即時解雇の場合は、解雇通告と同時に支払わなければなりません。

IPO労務監査において、よくあるケースは、即時解雇をしているのに、解雇予告と同時に解雇予告手当を支払っていないケースがあります。

なお、解雇制限期間として、一部の例外に該当する場合を除き、使用者は、「業務上負傷し、または疾病にかかり療養のために休業する期間およびその後30日間」ならびに「産前産後休業期間およびその後30日間」は解雇してはならないとしています。

IPO労務監査において、よくあるケースは、業務上の傷病により会社を休業している社員に対して、解雇をしているケースがあります。

この場合、その解雇は無効となりますので、注意が必要です。

③解雇権濫用法理とは?

最高裁(高知放送事件)は、「普通解雇事由がある場合においても、使用者は常に解雇しうるものではなく、当該具体的な事情のもとにおいて、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、当該解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効になるものというべきである」と、社員の責めに帰すべき事由のある事案において、同法理の適用があると判断しています。

つまり、社員の普通解雇について、就業規則に規定された普通解雇事由に実質的に該当し、かつ、その理由との関係では解雇することもやむを得ないという社会的相当性があるかどうかで判断されます。

このため、就業規則に規定された普通解雇事由に該当していたとしても、裁判所でその社会的相当性がないと判断された場合、その解雇は無効とされます。

IPO労務監査においても、IPO準備会社において、過去に普通解雇が確認された場合は、まずは就業規則の普通解雇事由に該当しているかどうかをチェックし、該当している場合は、その解雇について社会的相当性があったかどうかをチェックします。

④解雇無効の場合の給与は?

裁判所において、解雇が無効と判断されると、解雇日から無効判決が出るまでの間も労働契約は継続していたことになります。

したがって、本来であれば社員はその間も給与を得られるはずであったところ、無効な解雇を言い渡されたことによって働けず、給与も得ることができなかったという状況が発生します。

このような場合、その給与はどうなるのでしょうか?

この場合、社員が労務の提供をしながら就労できなかった原因は、原則として会社にあります。

したがって、民法の「債権者(会社)の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者(社員)は、反対給付(給与)を受ける権利を失わない」との規定により、会社は社員に対して解雇期間中の給与(バックペイ)を支払わなければならないことになります。

つまり、解雇日から裁判が終了するまでに2年かかったとすると、その2年分の給与を遡って解雇した社員に対して支払わなければならないということになります。

このように裁判所により解雇が無効と判断されると、大きな「未払い賃金」が発生する可能性がありますので、IPO労務監査においては、注意が必要なチェック項目です。

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