社労士コラム
IPO労務監査時によくある8つの誤解とは?
2021.09.8IPO労務監査
IPO労務監査において、IPO準備会社の経営者及びご担当者にインタビューした際における、よくある8つの誤解についてお話します。
目次
IPO労務監査において、経営者や担当者の方とお話をしていると、よく次のようなことを耳にします。
「社員との間で残業代を払わない旨の合意をしているため、残業代は払わなくても大丈夫!」
場合によっては、その合意を契約書として、書面に残されている経営者や担当者の方もいます。
実はこのケースには、問題があります。
非常に大きな金額の未払い残業代リスクを抱えていることになります。
その理由は、いくら社員との間で残業代を支払わない旨の合意(契約)をしていても、労働基準法は強行法規であるため、労働基準法で定められた基準を下回る労働条件は、無効となります。
つまり、労働基準法では
(1)1日8時間又は1週40時間を超えて労働した場合
(2)休日出勤した場合
(3)深夜に労働した場合
には、残業代を支払うようにとの定めがあります。
このため、この基準を下回る(残業代を支払わないとの合意)契約は、無効となり、認められません。
このような状態で、IPO準備期間中に労働基準監督署の調査や訴訟等が発生した場合、いくら会社が「社員との合意があって残業代を支払っていない」と主張しても、法的には全く受け入れられませんので、IPOすることは難しくなると思われます。
また、IPOするためには、過去3年間に遡って残業代を清算しなければなりません。
IPO労務監査において、経営者や担当者の方とお話をしていると、よく次のようなことを耳にします。
「基本給に残業代が含まれているため、残業代は払わなくても大丈夫!」
実は正しいやり方でやっていれば、必ずしも間違いではありません。
しかし、たいていの場合、やり方が間違っているため、未払い残業代が発生しています。
正しいやり方とは
(1)「基本給」と「残業代部分」が明確に区分されている
(2)「残業代部分」は、 残業代として就業規則、雇用契約書等に明記されている
(3)(2)を超えた場合には別途、残業代が支払われている
この3つの要件を満たしていない状態で、IPO準備期間中に労働基準監督署の調査や訴訟等が起きた場合、「基本給に残業代が含まれている」との主張は、認められない可能性が高いため、IPOすることは難しくなると思われます。
このため、定額残業代制度は、正しいやり方で会社のルールを整備する必要があります。
IPO労務監査において、経営者や担当者の方とお話をしていると、よく次のようなことを耳にします。
「営業社員には営業手当を払っているので、残業代は払わなくても大丈夫!」
これも前例と同様、正しいやり方でやっていれば、必ずしも間違いではありません。
しかし、たいていの場合、やり方が間違っているため、未払い残業代が発生しています。
よくあるケースは、ただ単に「営業手当は残業代の代わりとして払っている」と社長が言っているだけで、就業規則や雇用契約書にも明記されていないことがあります。
正しいやり方とは
(1)「営業手当」が「残業代」の対価として、明確にされている
(2)「営業手当」が残業代として就業規則、雇用契約書等に明記されている
(3)(2)を超えた場合には別途、残業代が支払われている
この3つの要件を満たしていない状態で、 IPO準備期間中に労働基準監督署の調査や訴訟等が起きた場合、 「営業手当は残業代である」との主張は、認められない可能性が高いため、 IPOすることは難しくなると思われます。
IPO労務監査において、経営者及び担当者の方とお話をしていると、よく次のようなことを耳にします。
「営業社員には歩合給を払っているので、残業代は払わなくても大丈夫!」
実は…間違っています。
多くの経営者の方が歩合給を払っていれば、残業代の支払は不要と誤解しています。
歩合給を払えば、残業代は支払わなくてよいとの記載は、労働基準法上どこにも明記されていません。
単に歩合給というだけで、残業代を払わなくてもいいという訳ではありません。
このため、このような状態で、 IPO準備期間中に労働基準監督署の調査や訴訟等が起きた場合、 「残業時間があっても、歩合給を支払っているため、残業代は払っていない」との主張は、認められないため、IPOすることは難しくなると思われます。
IPO労務監査において、経営者及び担当者の方とお話をしていると、よく次のようなことを耳にします。
「うちの会社は年俸制をとっているから、残業代は払わなくても大丈夫!」
実は正しいとも、間違っているともいえます。
正しい場合とは、年俸制適用者が「労働基準法上でいう管理監督者」等の場合です。
つまり、「労働基準法上の管理監督者」であれば、時間外残業代、休日残業代を支払う必要がないため(深夜残業代は支払う必要がある)、残業時間があっても、別途残業代を支払う必要はありません。
このため、深夜残業代を除けば、年俸制適用者に別途残業代を支払う必要がありません。
しかし、多くの会社では、「労働基準法上の管理監督者」ではない社員に対しても、年俸制を適用しているケースが多いため、この場合は、別途残業代の支払が必要です。
年俸制であることだけで、残業代を支払わなくてもよいとの記載は、労働基準法上どこにも明記されていません。
このため、このような状態で、 IPO準備期間中に労働基準監督署の調査や訴訟等が起きた場合、「労働基準法上の管理監督者以外の社員に対して、年俸制だから、残業代を支払っていない」との主張は、認められないため、IPOすることは難しくなると思われます。
IPO労務監査において、経営者及び担当者の方とお話をしていると、よく次のようなことを耳にします。
「うちの会社では、課長以上は管理職だから、残業代は払わなくても大丈夫!」
実は正しいとも、間違っているともいえます。
正しい場合とは、社内で決められた課長以上の管理職が、「労働基準法上の管理監督者」に該当している場合です。
つまり、上記同様「労働基準法上の管理監督者」であれば、時間外残業代、休日残業代を支払う必要がないため(深夜残業代は支払う必要がある)、別途残業代を支払う必要はありません。
このため、深夜残業代を除けば、管理監督者に別途残業代を支払う必要がありません。
しかし、多くの会社では、「労働基準法上の管理監督者」ではない管理職に対しても、残業代を払っていないため、この場合は、別途残業代の支払が必要です。
なお、「労働基準法上の管理監督者」として認められるためには、少なくとも下記の3つの要件が必要です。
(1)経営者と一体的な立場としての職務権限が付与されていたか
(2)出退勤に裁量の自由が認められていたか
(3)管理監督者としてふさわしい待遇を受けていたか
裁判例の傾向からすると、管理監督者であることを理由として残業代の支払を拒むことが認められるケースは、極めて少なく、認められるとしてもごく一部の社員のみが対象となります。
このため、このような状態で、IPO準備期間中に労働基準監督署の調査や訴訟等が起きた場合、「労働基準法上の管理監督者以外の管理職に対して、管理職だから残業代を支払っていない」との主張は、認められない可能性が高く、IPOすることが難しくなるため注意が必要です。
「管理職であれば、残業代は払わなくてもいい」との誤解は改め、早急に別の対策を講ずる必要があります。
IPO労務監査において、経営者及び担当者の方とお話をしていると、よく次のようなことを耳にします。
「社員に残業を命じていないし、勝手に残業をしているだけだから、残業代は払わなくても大丈夫!」
確かに、社員が残業している時間であっても、会社が命じたものではなく、社員が独断で残業した場合は、原則、労働時間に該当しません。
しかし、残業指示自体は必ずしも明示的なものである必要ではなく、黙示的(はっきり言わず、暗黙のうち)に残業指示があったとされる場合は、残業時間とみなされる可能性が高いので注意が必要です。
最近の裁判例からみても、会社が残業を行っていることを認識しながらこれを止めなかった以上、少なくとも黙示的には業務指示があったとして、残業時間は労働時間であるとの判断がされています。
「社員に残業を命じていないから、残業代は払わなくても大丈夫」との誤解は改め、IPO準備期間中に早急に対策を講ずる必要があります。
IPO労務監査において、経営者及び担当者の方とお話をしていると、よく次のようなことを耳にします。
「基本給の25%増しをちゃんと支払っているから、大丈夫!」
実は…ダメです。
労働基準法では、割増賃金の計算基礎から除外できる賃金が決まっていて、その賃金以外の手当は割増賃金の計算対象としなければなりません。
具体的には、下記の賃金しか、割増賃金の計算基礎から除外することができません。
(1)家族手当
(2)通勤手当
(3)別居手当
(4)子女教育手当
(5)住宅手当
(6)臨時に支払われた賃金
(7)1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金
なお、上記手当については、このような名称の手当であれば、全て割増賃金の基礎となる賃金から除外できるというわけではなく、実態として判断されるため、注意が必要です。
つまり、家族の人数とは関係ない基準で家族手当を支給しているような場合(扶養家族の有無、家族の人数に関係なく一律に支給するもの)は、除外できません。
「基本給だけしか割増賃金の計算に入れていない」場合は、IPO準備期間中に早急に対策を講ずる必要があります。